今井ゆみ X IMAIYUMI

多摩美術大学 絵画科日本画専攻 卒業。美大卒業後、広告イベント会社、看板、印刷会社などで勤務しながらMacによるデザイン技術を習得。現在、日本画出身の異色デザイナーとして、日本画家、グラフィック&WEBデザイナーなど多方面でアーティスト活動中。

大型観光バス

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お母さんは、気絶したゆみを抱き、大きな荷物を両手にぶら下げながら、診察室から表に出た。そこは、ちょうどマーケットの建物の裏側の商品搬入搬出をするトラックの車寄せがある場所だった。

その普段ならばトラックの停まっている、トラックの車寄せに、今は大型の観光バスが2台停車していた。

「ゆみちゃんのお母さん!」

バスの脇を歩いているお母さんに向かって、バスの中から少年盗賊団の女の子たちが手を振っていた。女の子たちの向こうには、少年盗賊団の男の子たちも乗っていた。大型バスは、2台停まっているが、特にバスは男女で別れているわけではないようだった。

お母さんは、少年盗賊団の子どもたちが乗っているバスの方に乗りこんだ。すると、少年盗賊団の子たちが、バスの入り口まで迎えに出てきてくれて、お母さんの荷物を持ってくれた。

「ありがとう」

お母さんは、子どもたちに荷物を持ってくれたお礼を言った。

「ゆみちゃん、大丈夫?」

少年盗賊団の子たちは、代わる代わるお母さんに抱かれ、気絶しているゆみの顔を覗きこんで言った。

「うん、気絶・・眠っているだけだから、そのうち目を覚ますと思うわ」

お母さんは、ゆみのことを心配してくれる子たちに答えていた。

「あ、お父さん。大丈夫でしたか?」

お母さんは、バスの座席に座っているお父さんの姿を見つけ、お父さんの隣の席に腰掛けた。ゆみは、自分の膝の上に乗せていた。

「ああ」

少しムッとしながらも、お父さんは、お母さんに頷いた。半袖を着ているお父さんの左腕からは、お母さんたちにも注射されたときに付いたアザのようなマークがくっきりとくっついていた。

「それは腹も立ちますよね。あれは健康診断なんかじゃないですよね。あれは、何なんですか?」

お母さんは、女医から聞き出せなかった疑問を、お父さんに投げかけた。

「わからない」

お父さんは、黙って一言だけ答えた。

「このまま、このバスで地上まで行くのかしら?それだったら、駐車場に停めてある車は、どうなるのかしら?車の中にまだ生活用品とかいっぱい入っているのですが」

お母さんは、お父さんに質問するような感じで、自分の今思っている疑問を口にした。お母さんのその疑問の答えは、お父さんにもわからなかった。

お母さんは、バスの外に目をやると、お母さんたちの後ろに並んでいた人たちも、建物の中から出てきた。彼女たちも、きっとお母さんたちと同じように、正体不明の注射を左腕とお尻に打たれたのだろう。1人は、左腕の上辺りを、右手でさすっていた。

お母さんたちが出てきた扉の向こう側にある扉、おそらく男子診察室の扉だろう、からは、診察を終えた男性の人たちが出てきて、大型バスに乗りこんできていた。

やがて、D地区に残っていた全ての人たちの診察が終わったのだろう。

最後に、扉の中からは、医者、お母さんたちのことを診察した女医や看護師たちに、役所の人たちが出てきた。

「お疲れさまでした」

役所の人たちは、医者たちに丁寧に挨拶していた。

「こんな健康診断は初めてです」

1人の医者が、役所の人たちに話していた。

「もちろんです。これは緊急の案件でして、このような診察は今回限り、もうこのような案件が発生することはありません」

役所の人たちは、医者に苦しまみれに答えていた。

「もちろんだ。今後は、二度とこのような人を傷つけるような治療行為はしたくないものだな」

医者は、役所の人たちに告げた。

「もちろんです。今後は、このような案件はぜったいに発生いたしません」

「ぜひ、そう願いたいな」

役所の人が答え、医者たちは口々に答えていた。

「奥の建物に、お食事を用意しています。ぜひ、召し上がっていってください」

役所の人は、医者たちを奥の建物へと案内していく。

「まあ、一仕事を終えて腹は減った。ご馳走になっていくか」

医者たちは、役所の人が案内する方向についていった。

「あの、先生方。今回の件に関しては、くれぐれも外部への口外はしないでください」

「もちろんだ。我々医者には守秘義務があるからな。口外はしない」

医者は、役所の人たちに答えた。

「それに、こんなことに関わったなんて口外したくても、我々の医者としての倫理、名誉にも関わりますから、ぜったいに外部の人になんか口外できませんよ」

女医が、役所の人たちにつけ加えた。

貧民誕生につづく

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