今井ゆみ X IMAIYUMI

多摩美術大学 絵画科日本画専攻 卒業。美大卒業後、広告イベント会社、看板、印刷会社などで勤務しながらMacによるデザイン技術を習得。現在、日本画出身の異色デザイナーとして、日本画家、グラフィック&WEBデザイナーなど多方面でアーティスト活動中。

恋のライバル

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「ゆみちゃん。お姉ちゃんのことを紹介してよ」

ゆみは、あゆみに言われた。

「いいよ。あたしのお姉ちゃん」

ゆみは、あゆみたちに祥恵のことを紹介した。

「こんにちは。ゆみがいつもお世話になっています」

祥恵が、少年盗賊団の子たち皆に挨拶した。

「いいえ。こちらこそ、いつもゆみのことお世話しています」

「ゆみをお世話してもらって、ありがとうございます」

祥恵は、竜のおふざけに笑顔で返事を返していた。

「なんでよ?いつも竜のこと、お世話してるのは、あたしの方でしょう」

ゆみは、竜に言い返した。

「あれ、そうだっけ?」

竜が言うと、皆は笑っていた。

皆が笑っているし、お姉ちゃんも帰ってきたし、遊星爆弾以来やっと幸せが戻ってきたんだと、ゆみは幸せを実感していた。

「ね、ね、彼は誰なの?」

ゆみは、背後から声をかけられて振り向いた。

振り向くと、そこには、荷物を持ってヤマトから下りてきた太助が立っていた。太助は、ゆみのすぐ側で冗談を言って親しげにふざけている竜のことを指さしていた。

「え、竜だよ」

ゆみは、太助に答えた。

「竜?」

「うん。あたしたち皆、貧民街で暮らしていた仲間なの」

ゆみは、太助に言った。

「だれ、この太った人は?」

「太助っていうの。訓練学校に通っていたでしょう。あのときの、あたしの同級生」

今度は、竜に聞かれたので、竜にも太助のことを答えた。

「ああ、もしかしてバイクに乗っているとかいう・・」

「そうそう。卒業式の前の日に、一度だけバイクの後ろに乗せてもらった人よ」

ゆみは、竜に答えた。

「へえ。学校で、いつもゆみちゃんの後にくっついてくるって人だ」

竜が、ゆみから聞いた学校の話をすると、

「え。いや、くっついているっていうか、俺たち仲が良いからさ」

太助は、竜に言った。

「はあ、仲が良いってどのぐらい?」

「まあ、いつも学生時代は食堂でお昼を一緒に食べていたし。クラスの席は、いつも並んで授業を受けていたし、あとコスモタイガーの実習もいつもコンビで、俺がナビ担当で操縦していた・・」

「なんだ、その程度か」

竜は、太助から聞いて、安心したように返事した。

「俺とゆみの付き合いは、もっと長いんだよな。なにしろ、地下シェルターで避難していた頃からだものな。あの頃からいつも常に一緒に行動してたよ」

竜が、なぜか太助に張り合ってみせていた。

「へえ。まあ、学校に入る前の、幼馴染みみたいなもんだね」

太助も、なぜか竜に張り合っていた。

「さあ、移動しましょうか」

祥恵が、ゆみの車椅子を押しながら、皆に言うと、

「あ、祥恵さん。ゆみちゃんの車椅子は、俺が押しますよ」

太助が言った。

「あら、そう」

祥恵が、太助に車椅子を押してもらおうとすると、

「え、お姉ちゃん押してよ」

ゆみが、祥恵にお願いした。

「太助くんは、自分の家に帰るんでしょう?だから、行き先も違うし、あたしブスだから、ブスの女の子の車椅子なんて押させたら申し訳ないじゃない」

ゆみは言った。

「え、嫌だな。ゆみちゃん。ゆみちゃんはブスなんかのわけないじゃないですか。世界一の大美人ですよ!」

太助が、慌ててゆみに言った。

「それじゃさ、あそこのバスに乗るところまでは方角も同じだから、あそこまで太助くんに車椅子押してもらおうか」

祥恵が、ゆみに言った。

「しょうがない。太助!あたしの車椅子押させてあげるから」

「はい、押させていただきます」

太助は、ゆみに向かって敬礼してみせると、車椅子を押してくれた。

太助とはバス停まででお別れになった。ここから太助はバスに乗って、自分の実家に帰るのだった。

「私たちは、どっちの方角かな」

お母さんが、あゆみに聞いた。

「どこに行きたいの?」

「え、貧民街の私たちのお家よ」

「貧民街って、もう無いよ。取り壊されちゃった」

あゆみは、お母さんに答えた。

「あら、そうなの。それじゃ、どうしましょうか?」

「貧民街のお家にあったものは皆、病院の側の施設に移動してあるよ」

あゆみたちが、お母さんに答えた。

「それじゃ、まずは、そこの施設に行きましょう」

「それなら、こっち。電車に乗っていけば3駅で行けるの」

少年盗賊団の子どもたちは、ゆみたち一家を施設まで案内した。元少年盗賊団の子たちと、ゆみ、祥恵に、お母さんとお父さんは電車に乗って施設まで移動することになった。

「おい、あゆみ。あいつ何なんだろうな」

駅へと歩きながら、竜が聞いた。

「あいつって?」

「あいつだよ。太助とかいう・・。なんか随分ゆみと馴れ馴れしくなかったか?」

「ああ、ゆみちゃんと学校でお友だちだったからでしょう」

あゆみは、竜に答えた。

「ね、もしかして太助って人に、竜は妬いているの?」

「え、なんで俺が妬かなくちゃならないんだよ」

「あら、そう」

それだけ言うと、その後は特に太助のことを竜に聞くことは無かった。皆は、駅から電車に乗ると3駅先の施設、貧民街を出た貧民たちのとりあえずの仮住まいのあるところに移動した。

東松原の家につづく

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