今井ゆみ X IMAIYUMI

多摩美術大学 絵画科日本画専攻 卒業。美大卒業後、広告イベント会社、看板、印刷会社などで勤務しながらMacによるデザイン技術を習得。現在、日本画出身の異色デザイナーとして、日本画家、グラフィック&WEBデザイナーなど多方面でアーティスト活動中。

最優秀パイロット

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「ゆみさん、大丈夫。いつものように飛べば、間違いなく一番で帰って来れますって」

太助は、自分が整備したコスモタイガー機に、ゆみが搭乗するのを手伝いながら言った。

「じゃあ、頑張って!」

太助は、コスモタイガーを発進させるゆみを送り出した。

「ぜったいに一番で戻ってこいよ」

坂本も、加藤も、お蝶夫人もそれぞれ自分のコスモタイガーに搭乗し、整備担当のクラスの仲間に送り出されていた。

今日は、コスモタイガー実習の卒業試験の日だった。

卒業試験にパイロットとして参加するのは、ゆみ、坂本、加藤四郎、お蝶夫人の4人だった。

スタートの合図とともに、誰よりも早く一番で大空へと飛び立ったのは、坂本だった。

「さすが、坂本さん。トップスタートですね」

地面で観覧しているクラスの生徒たちは、レースの実況を眺めながら、口々に話していた。

坂本機の後を追って、飛び立っていたのはお蝶夫人と加藤四郎だった。ゆみは、というと特に慌てることなく、他のコスモタイガー機のことは一切気にすることなく、マイペースにゆっくりと飛び立っていった。

「なんだかトロトロ飛んでるよな」

「あんなトロトロしたスピードじゃ、ブスよりも俺が飛んだ方が早く操縦できたんじゃないかな」

「青木、ブスと変わって、代わりに飛んでやったら?」

「本当だよな。おい、ブス!戻ってこい!俺と交代だ」

青木は、無線でゆみの乗っているコスモタイガー機に呼びかけた。

「おい、ブス!聞こえてんのか?俺がお前の代わりに卒業試験にパイロットで出るから、すぐに地上に戻ってこい」

青木は、もう一度、ゆみに無線で命令した。と、ガシャーンって音がして、ゆみの乗っているコスモタイガー機の無線のスイッチが切れた。

「あいつ、青木の無線を切りやがったぜ」

無線担当の松山が、青木に言った。

「まったく、ブスめが、可愛げのないやつだな」

青木は苦笑した。

ゆみのコスモタイガー機は、先行している3機よりも遥かに遅れてはいるけど、着実に地球の大気圏を離脱すると、障害物が浮遊している小惑星帯の中を、上手に飛んでくる小惑星群を避けながら、確実にコースを前方へと進ませていた。

ゆみよりも、ずっと先に小惑星帯の中へ突入していた坂本のコスモタイガー機は、予測不能で落下してくる小惑星に機体が当たらないように、必死で避けていた。同じく、小惑星帯に突入していた加藤四郎機も、お蝶夫人機も落下してくる小惑星を避けるのに苦労していた。

先行する3機が小惑星帯に苦労している間に、ゆみは坂本たちに追いついてしまっていた。

「おい、ブスが後方に追いついてきてる」

坂本は、加藤とお蝶夫人の2人に無線で連絡した。

ゆみは、ちょうど小惑星帯を避けるのに必死になっていた坂本機を横目に見ながら、そのまま、その脇をすり抜け、追い抜いて、先頭を飛ぶようになっていた。

「お蝶夫人、聞こえるか。まずいよ、ブス、ゆみのやつにたった今、追い抜かれた」

坂本は、お蝶夫人のところに無線を入れた。

「わかった。それじゃ、私たちは先回りして、ゆみ機が来るのを待ちます」

お蝶夫人は、坂本にそう返事すると、加藤機の方にウインクして、二機は並走して、小惑星帯を抜け、卒業試験のコースを外れると、斜めに一番最短距離を直進し始めた。

2機は、そのまま最短距離を進んで、ゆみ機の飛んでいる前方に先回りした。そして、ゆみ機の飛んでいる前方に現れたのだった。

「あ、」

いきなり自分が飛んでいる前方に、お蝶夫人と加藤四郎の操縦するコスモタイガーが現れて、ゆみの飛んでいるコスモタイガー機の前方のコースを塞いで、立ち塞がった。

ゆみは、お蝶夫人たちのコスモタイガー機に衝突しないように、その前方でブレーキを掛けた。

ゆみは、コースをさらに前へと進ませたいのに、すぐ前方をお蝶夫人と加藤四郎の機体で塞がれてしまっているので、前へ進めないでいた。

と、後ろから追いついてきた坂本機が、ゆみの機体のすぐ脇をすり抜けると、再び、ゆみ機を追い抜いて、前方へ進んでいった。ゆみも、慌てて坂本機の後を追いかけていった。

「このままじゃ、また、ゆみのやつに追いつかれてしまう」

坂本は、お蝶夫人に再度、無線でレース実況を報告した。

「了解、援護します」

お蝶夫人は、坂本に答えると、加藤四郎の方を見た。加藤四郎の方も、お蝶夫人に視線をやって、そのまま黙ってうなづいた。2機は、ゆみ機の後を追いかけていくと、ゆみ機に向かって、レーザービームを発射した。お蝶夫人の放ったレーザービームがゆみの機体の尾翼に命中した。

尾翼を損傷したゆみ機の機体はバランスを失いながらも、操縦桿で必死にバランスを取りながら、機体を前方へと進ませていた。

卒業試験での武器の使用は、禁止されている。にも関わらず、武器のレーザービームを使用したお蝶夫人と加藤は、レースを失格になった。自分たちは、失格になってでも、ゆみ機の尾翼にダメージを与えることで、坂本機を優勝させようというつもりだったみたいだ。

「なんか汚いな」

それを観戦していて、つぶやいたのは太助1人だった。あとの生徒たちは、知らんぷりしていた。太助は、試験のジャッジをしている教官のほうを見た。教官は、手に持っているノートに試合の様子を記載するのに夢中で、飛んでいるコスモタイガーの方は見ていません、違反には気づいていませんという振りをしていた。

坂本とお蝶婦人の家は、大手企業の創業者一家だった。学校には多額の寄付をしていた。加藤四郎は、元宇宙戦艦ヤマトのコスモタイガー隊隊長の息子だ。

ゆみは、必死で損傷した尾翼のバランスを取りながら、猛スピードでゴールの地球を目指していた。そして、地球の大気圏に突入すると、そのままゴールである学校のグランドに機体を突入させた。ゆみ機がグランドに落下していくその少し前方を坂本機がゴールへ向けて飛んでいた。

坂本機は、学校上空のゴールラインに向けて直進していた。

そのすぐ直後を、ゆみ機は大気圏突入時の勢いそのままに、学校上空のゴールへ向かって突入していた。大気圏突入時の勢いそのままにゴールラインに突入したゆみ機は、坂本機の機体の鼻先、先端がゴールラインに突入する本のわずか1秒程度前に、ゴールラインに突入してしまっていた。

「ゆみちゃん!一番っすよ。優勝ですよ!」

太助は、ゴールしたゆみ機の機体に駆け寄った。

「ゆみ機、トップ!坂本機、2番!後の残り2機は失格!」

校内放送が卒業試験の結果を伝えていた。

英雄の丘につづく

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