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スターシャの力
「ほかの者は、火災が起きたときのために消化器の準備をしていてくれ」
ほかの手の空いていた乗組員たちは、片手に消化器を構えて火災に備えていた。古代進と坂本は、格納庫にあったフォークリフトとクレーンで突入してきたコスモタイガーを受け止める準備をしていた。
もう、まもなくコスモタイガーは格納庫に到着しそうだった。
ここで、猛スピードで格納庫に突入して来た制御不能のコスモタイガーを古代進と坂本が重機で両サイドから取り押さえ、その際に起こった火災を、他の乗組員たちが消化器で消火する、大捕物帳を想像した読者の皆さんには申し訳ないが、そんなことは全く起きなかった。
格納庫に制御不能に飛び込んで来たコスモタイガーは、宇宙風に煽られて確かに猛スピードを出していた。しかし、その機体は、格納庫に入り、着陸場所に到達するなり、急速に減速した。
減速したコスモタイガー機は、その場に急停止し、そのまま格納庫の床に着陸した。
「あ、停まった」
見ていたヤマトの乗組員たちは皆、その信じられない光景に唖然としていた。
ただ1人、古代守だけは、その現象を理解しているようだった。
「スターシャ、君か?中にいるのは君なのだろう?」
古代守は、娘のサーシャを腕に抱きかかえたまま、着陸したコスモタイガーに近づき、中に話しかけた。その話し声にまるで答えるかのように、コスモタイガーのコクピットのハッチが開いた。そのコクピットのハッチは、イスカンダル星の爆発でヒビ割れ、ところどころ割れていた。星の爆発の中、飛んで来たその衝撃の大きさを物語っていた。
開いたコスモタイガーのハッチの中から、薄いブルーのドレスを身にまとったスターシャが立ち上がった。スターシャの両腕には、ぐったりと気絶しているゆみの身体が抱かれていた。
スターシャは、ゆみの身体を抱きかかえたまま、コスモタイガーを降りて地上に立った。
「彼女が、私を助けてくれました」
スターシャは、側に寄って来た古代守に答えた。
妹のゆみの姿を確認して、祥恵もスターシャの側に近寄った。
「あなたの妹さんですか」
「はい」
祥恵は、スターシャに返事して、スターシャから気絶しているゆみの身体を受け取った。
「ゆみ・・」
久しぶりに会う妹の姿に、祥恵は両腕で抱き上げると、自分の頬を妹の頬に当てた。
「守、私は、彼女にサーシャの母親であることを教えられました。私も、サーシャと共に、あなたの故郷の星、地球に連れて行ってください」
「もちろんだよ」
古代守は、娘のサーシャのことを抱きかかえながら、スターシャのことも自分の肩に抱き寄せた。
「ほら、あんたも、ゆみちゃんのところに行ってあげなよ」
森雪が、横に立っていた太助に声をかけた。
が、太助は、ゆみの側に行くよりも逆に2、3歩ゆみから離れて、後ろに後ずさっていた。
気絶した状態で、姉の祥恵に抱かれているゆみは、頭がだらんと垂れ下がり、胸まで伸びた長い髪もだらんと垂れ下がっていた。服は衝撃でボロボロに破れ、ズボンも上着も穴が開いていた。服の袖などは、全部破れまくって、袖というよりもただの生地という状態だった。
「どうしたのよ?」
森雪は、後ろに後ずさっている太助に声をかけた。太助の視線は、ゆみの左腕の破れた袖からはみ出した貧民の焼き印を、恐ろしいものを見るかのようにずっと見続けていた。
「ほら、どかんか!どかんか!道を空けろ」
突然、格納庫の静けさを打ち破る大声がして、入口から格納庫の中に佐渡先生が入って来た。佐渡先生の後ろには、赤いロボットのアナライザーも、担架を小脇に抱えて走ってくる。
格納庫にいた皆が、佐渡先生たちが通れるように道を開けると、佐渡先生たちは、そこを通り抜けて、ゆみの前までやってくる。
「アナライザー、担架をここに置け!患者を担架に乗せて運ぶんじゃ」
佐渡先生は、アナライザーに命じ、祥恵の腕からゆみを受け取り、担架の上に乗せた。アナライザーは、ゆみの乗っかった担架の前方を持ち上げる。
「ほら、お前さんも妹を運ぶのを手伝わんか?」
祥恵は、佐渡先生に言われて、担架の後ろ側を持ち上げる。そのまま、佐渡先生に誘導されて、医務室へと移動することとなった。
ばれたにつづく