今井ゆみ X IMAIYUMI

多摩美術大学 絵画科日本画専攻 卒業。美大卒業後、広告イベント会社、看板、印刷会社などで勤務しながらMacによるデザイン技術を習得。現在、日本画出身の異色デザイナーとして、日本画家、グラフィック&WEBデザイナーなど多方面でアーティスト活動中。

脱出船

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「ね、今なにか格納庫から出てこなかった?」

戦いを終えて、ヤマトの格納庫に戻ろうとしていた祥恵は、側を飛んでいる坂本機に聞いた。

「何かって、なんですか?」

坂本は、逆に祥恵に聞き返した。

「何かって言われても、私にもよくわからないけど、なんか物凄い高速で格納庫から何か出て来なかった?」

「はあ?物凄く高速で・・ですか?」

「なんか、今もどろうとしていた格納庫のハッチからすごい勢いで何か飛び出してきたような気がしたんだけど・・」

坂本は、祥恵に言われて首を傾げた。

「いいえ、特に何も出てきていないような・・私は気づきませんでしたが」

坂本は、祥恵に返事した。

「そう、気づかなかったんだ」

「だいたい物凄い高速で・・ってどのぐらいのスピードですか?」

「え、すごい一瞬というか、まるで光速の速さっていうか」

祥恵は、坂本に聞かれて返事した。

「そんな光速で走るような乗り物、格納庫になんか入ってないですよ。格納庫にある乗り物で一番速いものっていったら、いま私たちが乗っているコスモタイガーじゃないですか」

「そう、そうよね。私の気のせいかな」

祥恵は、坂本に言われて思い直した。そんな光速なスピードで飛ぶコスモタイガーなんて存在するわけもない。

「無事、ゆみちゃんは飛んでいったわね」

「ええ。それにしても、相変わらず、ゆみちゃんのコスモタイガーの腕はピカイチですよ。あんな速く飛ばせるなんて」

「そういえばそうよね。ゆみちゃんが飛んでいくの見て随分速く飛ぶなって思ってたけど、やっぱ通常のコスモタイガーの飛行速度よりもはるかに速かったのね」

「あれが、坂本にも真似できないゆみちゃんの高い操縦技術なんです」

太助は、まるで自分のことを自慢するように、ゆみの操縦を森雪に自慢していた。

2人は、ゆみのことを送り出した後、医務室に戻るために廊下を歩いていた。

 

「ただいま」

祥恵は、コスモゼロ機を格納庫に着艦させ、第二艦橋に戻ってきた。

「お疲れさま」

第二艦橋にいた島大介や古代進たちが祥恵に声をかけた。

「なんだか、完全勝利でなく、途中で投げ出して戻ってきちゃった気分」

祥恵が、島大介に苦笑しながら、答えた。

「まあ、こんなときもあるさ」

島大介は、祥恵の戦闘を労ってくれた。

「無駄では無いさ。我々が精一杯戦ったことでスターシャさんだって決断してくれたんだろうし」

「そう、無駄ではないよ」

古代進と島大介は、祥恵に言った。

「それはそうね」

祥恵もニッコリと笑顔になった。

「そうそう、祥ちゃんは笑ってる笑顔の方がずっとかわいいよ」

島は、笑っている祥恵に言った。

 

ゆみは、急がなきゃ、急がなきゃと焦りながらコスモタイガーを操縦していた。なにしろ、スターシャさんが決断してしまう前に一刻も早くイスカンダル星に到着しなければならないのだ。ともかくコスモタイガーを猛スピードで飛ばしていた。

「あ!」

ゆみは、自分がイスカンダル星に飛ばしているコスモタイガーのはるか前方、イスカンダル星の方からヤマトの方に向かって飛んでくる宇宙船に気づいた。

イスカンダル星から飛んできた宇宙船は、ちょうどゆみの操縦するコスモタイガーと途中ですれ違った。ゆみのコスモタイガーは、すれ違った後そのままイスカンダル星に向かうのだが、相手の宇宙船は、ゆみがやって来たヤマトに向かって飛んでいた。

すれ違ったとき、宇宙船のコクピットに子どもを抱えている男性の姿が見えた。

「待っててね、あなたのお母さんは必ず救ってあげるからね」

ゆみは、すれ違うときに、宇宙船の中にいた男性に向かって敬礼をしながら、頭の中で誓っていた。宇宙船にいた男性の方も、ゆみのことに気づいたようで、こちらに敬礼を返してくれていた。

宇宙船は、そのままヤマトの方に行ってしまった。

「さあ、急がなくちゃ!」

ゆみは、またアクセルを踏み込んでコスモタイガーをイスカンダル星に向けて飛ばし続けていた。1秒でも早くイスカンダル星に着陸できるために。

 

「こちら、格納庫、田中。第二艦橋聞こえますか?」

ヤマト格納庫から第二艦橋の相原に通信が入った。

「はい、第二艦橋、相原」

「こちら格納庫。まもなくスターシャさんの乗るイスカンダル星からの脱出船が、こちらに到着します。受け入れのため着艦準備して待機中です」

格納庫の田中は、第二艦橋の相原に連絡した。

「了解。スターシャさんの脱出船の着艦、誘導お願いします」

第二艦橋の相原から格納庫の田中にも連絡が入った。2人の会話は、艦内放送を通じて、ヤマト全艦にも伝えられていた。

「あのう、スターシャさんたちって、この脱出船でヤマトに乗艦するのですよね」

医務室にいる太助は、森雪に訪ねた。

「ええ、そうよ」

森雪は、太助に答えた。

「それじゃ、ゆみちゃんってイスカンダル星に何をしに言ったのでしょうか?」

「え?」

森雪も、太助に聞かれてうまく返事できなかった。

「でも、彼女は彼女で何か意味があるはずよ。そうでなかったら、あんなに必死にコスモタイガーで飛んでいかないでしょう」

「それは、そうですよね」

太助も頷いた。

「ね、ちょっと待って。ゆみちゃんは今、イスカンダル星に何か重大な用事を片づけに行っているのよ。でも、スターシャさんたちの脱出船がヤマトに到着したら、そのままヤマトはスターシャさんたちを連れて地球に戻ってしまうってことはないかしら?」

「それは、あり得ますよね。なにしろ、ゆみちゃんが出撃していることは僕らと格納庫のおじさんしか知らないんですから」

太助は、森雪に言われて答えた。

「それって大変じゃない!気づかずに、ゆみちゃんをイスカンダル星に置いてきぼりにして地球に帰ってしまったら・・私、ちょっと第二艦橋に行って、古代君に伝えてくるね」

森雪は、太助に言った。

「お願いします」

太助と佐渡先生も言って、森雪は第二艦橋に向かった。

お姉ちゃんにつづく

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