今井ゆみ X IMAIYUMI

多摩美術大学 絵画科日本画専攻 卒業。美大卒業後、広告イベント会社、看板、印刷会社などで勤務しながらMacによるデザイン技術を習得。現在、日本画出身の異色デザイナーとして、日本画家、グラフィック&WEBデザイナーなど多方面でアーティスト活動中。

医務室

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「あっ」

医務室の前までやって来ると、部屋の前の廊下にいた人たちの姿をみて、ゆみは小さく呟いた。

「あれ、ゆみじゃないか」

「おお、どうした、どうした。あの派手な色したコスモタイガーに乗っているのかと思ってたら、こんな生活班でいったい何してるんだよ」

部屋の前の廊下にいたのは坂本たちだった。彼らも、こっちに歩いてくるゆみの姿に気づくと、側に寄って来て声をかけて来た。

「俺さ、ゆみさんのコスモタイガーの技術はクラス一だと思っていたから、せっかくヤマトに乗っても、色々コスモタイガーの操縦の仕方を教えてもらいたいなと思っていたのに、生活班に移ってしまったなんて残念だな」

坂本たちは、普段の心にもないことを、ゆみに話しかけていた。

なに、こいつら。あたしに喧嘩を売っているのかな。

ゆみは、思わず両手に力が入ってしまっていた。と、そんなゆみの手を、森雪は上からぎゅっと握ってくれた。

「ゆみちゃん、あんな奴ら無視して行くよ」

森雪は、そっとゆみの耳元で囁いた。ゆみは、森雪に手を握られながら、坂本たちの横を通り過ぎて、佐渡先生のいる医務室の中に入る。

「おい、聞いてるのかよ!」

「ブスのくせに無視してんじゃねーよ」

ゆみが知らん顔して通り過ぎようとしているのに、坂本たちの方から話しかけて来た。森雪が、そっとゆみの手の上から優しく握り返してくれたので、ゆみはじっと我慢して、坂本たちの前を通り過ぎることができた。

「おい、聞いてんのかよ、ブス」

坂本は、挑発に乗ってこないゆみに怒鳴りつけた。でも、ゆみは全く坂本たちのことは気にせずに医務室の中に入った。が、

「あんたたち、さっきから女の子にブスブス言っているんじゃないわよ」

と切れてしまったのは、森雪の方だった。

「なんなら、私が相手になってやろうか?」

そう森雪が言うと、坂本たちは黙って逃げていってしまった。

「ありがとう、あたしのために・・」

ゆみは、森雪にお礼を言った。

「ううん。さあ、始めようか」

森雪は、医務室でゆみに包帯の巻き方を教えてくれた。

「こういう風に巻いておけば、いざという時に包帯を取り出しやすいでしょう」

箱の中の包帯をいつでもすぐに手当ての時に使いやすいように、巻き直しておくのだという。

ゆみは、箱の中にいっぱい入っていた包帯を、机の上に広げると、1つずつ巻き直し始めた。初めはおぼつかない手つきだったが、慣れて来ると、クルクルと簡単に巻き直せるようになって来た。

「雪君、ちょっと来て、手を貸してくれ」

森雪が佐渡先生に呼ばれて、奥の診察室の方に行った。そこで、佐渡先生に言われて、2人で手術台の機械の整備をやり始めた。その間、ゆみは手前の部屋で、ずっと包帯を巻き直していた。

森雪は、手術台の機械の整備が終わると、佐渡先生とともに診察室から出て来た。

「えっ!ゆみちゃん、ここにあった包帯を全部巻き直したの!」

大きなダンボール箱に入っていた包帯が全て巻き直し終わっていたのだった。

包帯を巻き直し終わったゆみは、部屋の奥の患者さんが入院するベッドが置かれているところの周りを掃除していた。そのほかの場所も掃除し終わった後のようで、部屋の中全体は、ピカピカに輝いていた。

「ちょっとすごいよ、よくお部屋の中までこんな綺麗に掃除し終わったわね」

森雪は、驚いていた。

「先生!ゆみちゃんったら、ここにあった包帯を全部巻き直しちゃった」

森雪は、ゆみの仕事の速さを佐渡先生に報告した。

「集中力じゃな、おそるべき集中力じゃな、集中して仕事を片付けてしまったのじゃろう」

佐渡先生も感心した。

「どうせ、佐渡先生のお仕事のお手伝いするのならば、獣医さんのお仕事を手伝いたかったな」

ゆみは、佐渡先生に言った。

はじめてのワープにつづく

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