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貧民裁判
「よし、今のうちだ。行ってこい」
佐渡先生は、森雪が坂本や太助たちを相手にしているのを見て、祥恵たちに指示した。
森雪は、医務室の前の廊下に陣取っている太助たちと話し合っていた。
「どうして雪さんは貧民なんかかばうんですか?」
「貧民って言えば、どうしようもない種族の連中ですよ」
「そうね。そうなのかもしれないけど・・。ほら、ゆみちゃんだって私たちヤマトの仲間じゃないの」
森雪は、太助や坂本たちを前に、相手のご機嫌を取りつつ苦し紛れの返答をしている。
「仲間?」
「仲間じゃないですよね、あいつが貧民のくせに、勝手にヤマトに潜り込んできただけですよね」
太助や坂本たちは、森雪と押し問答を繰り返していた。
その隙をついて、佐渡先生は少し離れたところから祥恵たちに指示したのだった。佐渡先生からの合図を受けて、祥恵とお母さんの2人は医務室を抜けて、廊下の先にある第二艦橋へのエレベーターに乗りこんだ。
「お母さん、大丈夫?」
「ええ、私は大丈夫」
祥恵は、廊下を全速力で走らされた母親の体調を気にしていた。
「このぐらい大丈夫よ。ゆみは、あんたがいない間、本当に必死で頑張って、貧民街でも皆の食料調達したり、ここでもスターシャさんのことを命がけで救出してきたのだもの。今度は、私たちが頑張る番よ」
お母さんは、走った後で少し息を切らせながら、祥恵に言った。
「そうだね・・」
祥恵は、エレベーターのドアを閉めると、第二艦橋のボタンを押した。
エレベーターは、第二艦橋へと上がっていく。2人はエレベーターを降りると第二艦橋の中に入った。祥恵は、そのまま艦長席にいる古代進のところに真っ直ぐ進んだ。
「艦長代理。お願いがあります」
祥恵は、古代進に言った。
「うん」
「私に地球と、地球政府の長官と通信させてください。どうしても話したいことがあります」
「別に構わんよ」
祥恵は、通信班の相原のところに行く。相原は、古代進と祥恵の会話を聞いていて、既に地球政府へ通信をつなげてくれていた。
「ありがとう」
祥恵は、相原に言うと、
「長官、長官。聞こえますか」
と地球政府に向かって呼びかけた。
「おお、祥恵くんか、久しぶりだな。どうじゃ、久しぶりに乗ったヤマトの様子は」
「おかげさまで。あの、長官にお願いがあります」
ヤマトで戦闘班長をしている祥恵は、長官ともよく話す間柄であった。
「お願い。わしにかね?」
「はい。長官は地球政府が制定した貧民という制度をご存知ですか?」
「貧民・・。ああっ」
どうやら、その口調から長官も貧民制度について知っているようだった。だが、なぜ貧民について祥恵から聞かれるかの理由までは知らないようだった。
「あの長官、私の妹が爆発で消滅したイスカンダル星の中からスターシャさんを救出したことはご存知ですか?」
「スターシャさんを救出・・ああ、今年度の最優秀MVP卒業生の子が救ったという話は聞いている。こちらの地球のテレビ、マスコミでも連日その話題で持ちきりだ」
長官は、祥恵に答えた。
「しかし、その子が祥恵くんの妹さんだったとは知らんかった。君の妹さんなのかね?」
「ええ。ガミラスの遊星爆弾の避難の際に別れて、以来ずっと会っていなかった妹のゆみなんです」
「それは、それは。それで再会できたのか?それは二重に何よりの話だな」
長官は、祥恵から話を聞いて頷いた。
「それが、妹のゆみなのですが再会したら貧民とか呼ばれ、腕に人工のアザが付けられていました。妹だけではありません。再会した母も父も腕にアザを付けられていました」
祥恵は、大型スクリーン越しに、母と自分の左腕を長官に見せながら言った。
「ああ・・」
「でも、長官もご存知の通り、長女の私の腕にはそんなアザもありませんし、貧民でもありません。これは貧民というものに対する大きな矛盾ではないでしょうか」
祥恵は、長官に訴えた。長官は、祥恵からの話を黙って聞いているだけで、その話にそれ以上突っ込みたくないという印象だった。
「長官・・」
祥恵は、長官がずっと黙ったままなので、返事の催促をした。
「それは、その・・。地上の放射能がきれいになったときに、地球政府のために良かれと思い制定された貧民制度の矛盾、手違い、ミスだな」
長官は、静かにつぶやいた。
「まさか、貧民を選択する際に、選択の担当者にしても、その家族の中に行方不明の生存者がほかの場所にいるということが確認しきれなかったのだろう」
長官は、それだけつぶやくと黙ったまま、考え込んでいた。
「祥恵くん。君のご両親と妹さんの貧民アザは政府で責任持って治療で消去しよう。君の家族の貧民も取り消そう・・」
長官は、祥恵に提案した。
「それはありがとうございます。しかし、私の家族だけでなく、他にも地上には貧民に認定されてしまっている方が大勢いるみたいなのです。彼らの処遇は・・」
「・・」
長官は、祥恵の質問に黙ったままだった。
「長官。横からすみません。ヤマトとしては、地球政府の貧民制定は間違いだったのだから、地球政府には速やかに貧民制定の取り消しと謝罪をするべきと考えます」
2人の通信に横から割って入った古代進が長官に進言した。
「それは・・関係閣僚などいろいろと根回しが・・」
長官は、古代進の進言には否定的だった。
「長官。もし地球政府が決めた貧民制定は間違いだったとお認めにならないのでしたら、貧民に対して謝罪もこのまましないと言うのならば、ヤマトとしては独自にマスコミ、メディアを使ってでも、このことを世間に公表したいと考えます」
古代進は、長官にきっぱりと断言した。古代進の発言を受けて、第二艦橋にいたヤマト乗組員たち全員が長官に敬礼して、古代進の発言に頷いていた。
「わかった。少しで良い、時間をくれ」
長官は、古代進をはじめとするヤマト乗組員たちに返答した。
貧民解放につづく