今井ゆみ X IMAIYUMI

多摩美術大学 絵画科日本画専攻 卒業。美大卒業後、広告イベント会社、看板、印刷会社などで勤務しながらMacによるデザイン技術を習得。現在、日本画出身の異色デザイナーとして、日本画家、グラフィック&WEBデザイナーなど多方面でアーティスト活動中。

少年盗賊団再結成

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「なんか、ここ薄ら寒いな」

竜は、ゆみに連れてこられた下水道の中で、涼しさに自分の腕をさすりながら言った。

「寒い?寒かったら、そっちのさ、通路に出れば暖かいから。暖かいというよりも、めちゃ熱いから」

ゆみは、そのコンクリートの空間の奥にある通路を指差して言った。竜は、ゆみの指差した奥の通路に出てみる。

「わっ!」

竜は通路に出てみてから、慌てて一歩後ずさった。

通路には、ゴオーゴオーと水が流れていたのだった。その水が流れている両側に細い通路があって、流れる水の脇を歩けるようになっていた。確かに、その水の流れる通路には、どこからか熱い空調の風が出ているようで、涼しいコンクリートの空間よりは暖かった。

「で、ここの空間と、お前の言う貧民制度をぶっ壊す計画とはどういう関係があるんだよ」

「知りたい?」

ゆみは、竜に質問されて答えた。

「何をもったいつけているんだよ!俺たち仲間だろう、教えろよ」

竜が、ゆみに言った。が、ゆみは黙ったまま何も言わなかった。

「ね、それを知りたかったら、皆をここに連れて来なさいよ。竜1人に説明したって仕方ないからね。皆にいっぺんに説明してあげるよ」

ゆみは、いたずらっぽく微笑みながら、竜に話した。

「何だよ、皆って?貧民街の貧民全員ってことか?少年盗賊団の皆のことか?」

「貧民にされた人全員をこんなに狭いところに連れて来てどうするのよ。少年盗賊団の皆のことに決まっているでしょう」

ゆみは、竜に答えた。

 

竜は、少年盗賊団の子どもたち全員を連れて、コンクリートの空間に集まって来ていた。

「わー、何ここ?」

「すげーな、秘密基地みたいだな」

子どもたちは、コンクリートの空間を眺めて皆、口々に騒いでいた。

「見て。ここの下水道の水は、この町の地下をずっと流れているのよ。すごいでしょう」

ゆみは、子どもたちに下水道を流れていく水路を見せながら、言った。

「えっ、ここの町の地下全体って、貧民街の外にまで、この水路って繋がっているの?」

「そうよ。すごいでしょう」

ゆみは、子どもたちに説明した。

「え、貧民街の外にまで繋がっているって!それじゃ、ここの下水道から貧民街の外に逃げられるってことじゃないのか!」

竜が、ゆみの話を聞いて叫んだ。

「そうね」

ゆみは、興奮している竜のことを冷めた目で見た。

「何、そんなに落ちついているんだよ。ここから皆で逃げれば、貧民街の人たち皆が、外の世界に逃げられるんだぞ!」

「あんた、バカ?」

ゆみは、竜に言った。

「貧民街の皆で、ここからいっぺんに逃げたってすぐに見つかって、すぐに捕まって、またここに戻されてしまうだけよ」

ゆみは、竜に言った。

「それで、捕まった後に、ここには二度と貧民街から来れないように、入口を閉じられてしまうよね。そしたら、せっかくの脱出口が無くなってしまう・・」

「そう。学くんは、竜なんかよりずっと頭いいよね。よくわかっているじゃない」

ゆみに褒められて、学は嬉しそうにしていた。

「チェ、じゃあ、どうすれば良いんだよ」

竜は、つぶやいた。

「皆、これを見て」

ゆみは、大きな紙を広げて、子どもたちの前に出した。広げた大きな紙には、鉛筆で地図が描かれていた。

「これはね、ここの地下の下水道の地図。あたしが歩いて歩数を確認して作った地図なの。まだ下水道の全部は把握しきれていないんだけど、だいたいこの貧民街を含んだ町の地下、14丁目から5丁目ぐらいまでは把握できているわ」

ゆみは、言った。

「ゆみ姉。すごいよ!よくこれだけ調べたよね」

「まだまだよ。あたしの計画では5丁目までじゃダメなの。1丁目までの下水道が把握できないと、あたしの計画はうまくいかないの」

ゆみは、皆に言った。

「だけどね。この町の商店街、大手のスーパー2件に、コンビニ15件、大きな駅3カ所の真下までなら、この下水道の地図を使って出ていくことは十分にできるわ」

ゆみは、皆にはっきりと断言した。

「え、それって・・」

竜が、ゆみの顔を見た。

「これから、毎晩この下水道を使って出かければ、この町周辺のお店屋さん、スーパーなどに侵入して、食料を頂いてくることならば簡単にできるわ。そうなれば、もうあんなダンプカーが地面に落っことしていた食料なんて地面に這いつくばって拾う必要もない」

「マジかよ」

皆は、ゆみの顔をじっと見て、ゆみの言う次の言葉を待っていた。

「今日から、今から、ここに少年盗賊団を復活する!」

ゆみは、皆に宣言した。

「わー!よーし、頑張るぞ!」

「少年盗賊団復活だ!」

子どもたちは、ゆみを囲んで大騒ぎしていた。

「ねえ、待って。待って!皆、ちょっと聞いて!」

騒いでいる子どもたちのことを、ゆみは制止した。

「ただ、今回の少年盗賊団はもっと大変よ」

ゆみは、皆に真剣な顔で述べた。

「前の少年盗賊団は、地下シェルターの中で、あなたたちだけが食べるための食料を盗んでくるだけでよかったでしょう。でも、今回はそうじゃない。自分たちの食べる分だけじゃない。この貧民街の中で貧民にされてしまった皆のために、皆が食べる分までも盗んで来なければならない。貧民街の貧民皆の食料がかかっているの!それだけ重要よ」

ゆみは、皆に言った。

「皆の分を盗んでくるのかよ。一晩で?」

「一晩で皆の分全部なんて無理よね。だから少しずつ盗んで、蓄えていかなければならない」

ゆみは、皆に説明した。

「見て!このコンクリートの空間を。ここはおあつらえ向きに空調と下水道の関係で冷蔵庫のように冷えている。ここを盗んできた食料の貯蔵庫にするの。そして、ここに貯めた食料を少しずつ、この貧民街に暮らす貧民たちに分け与えるの。貧民たちの中には、まだ小さな子供を抱えた一家もいるわ。おじいちゃんやおばあちゃんのお年寄りの一家もいる。その人たち皆に平等に振り分けてあげなければならない。事は重大よ」

「わかった!真剣勝負だね」

子どもたちは、ゆみの言葉に真剣に答えていた。

貧民街の小さな改革につづく

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