今井ゆみ X IMAIYUMI

多摩美術大学 絵画科日本画専攻 卒業。美大卒業後、広告イベント会社、看板、印刷会社などで勤務しながらMacによるデザイン技術を習得。現在、日本画出身の異色デザイナーとして、日本画家、グラフィック&WEBデザイナーなど多方面でアーティスト活動中。

89 浦賀へ

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「今夜は、ゆみにうちのヨットで一番いい場所で寝かせてやるからな」

お父さんは、ゆみに言った。

「一番良い場所ってここ?」

「ああ、個室になっているし、一番ベッドらしいベッドだぞ」

お父さんは、ゆみに言った。

「そうかな。昨日のお姉さんのヨットの方が、ちゃんとしたベッドあったよ」

ゆみは、お父さんに言った。

「お母さんは、ここのちょうど反対側のベッドで寝るんだから、お母さんのすぐ側で寝れるから良いだろう」

お父さんは、なんとかゆみのことを快適に眠れるようにしてくれていた。

「ゆみ殿は、ここで寝るのか?」

ブータ先生が、ゆみに言った。

「ブータ先生も、ここで一緒に寝よう」

「ああ」

パイプベッドの上に敷かれた毛布の上に、ゆみはブータ先生と寝転がって、上から薄い毛布をかけて眠りにつく。

「お姉さんはどこに寝るんだ?」

ゆみの頭の脇のところに横になりながら、ブータ先生がゆみに聞いた。

「お姉さん?」

「お姉さんだよ、お姉さん。祥恵さん」

「ああ、お姉ちゃんね。お姉ちゃん、どこに寝るの?」

ゆみは、後部キャビンのパイプベッドの中から、メインキャビンにいる祥恵に声をかけた。

「私、私は、どこかこのへんで寝るから心配しなくてもいいわよ」

祥恵は、メインキャビンでジュースを飲みながら答えた。

「ブータ先生が、お姉ちゃんがどこで寝るか気にしてくれているの」

「ああ、そう。それじゃ、ブータ先生に心配しなくても、ここで寝るからって言っておいて」

祥恵は、まさか本当にブタのぬいぐるみが聞いてきたとは思わずに、ゆみに返事をしていた。

「おやすみ、ブータ先生」

ゆみとブータ先生は、お父さんのヨット、後部キャビンのパイプベッドで並んで眠ってしまった。ゆみの寝ているのは後部右側のキャビン。お母さんは、その左側のパイプベッドで寝ていた。

「私、ここで寝るね」

祥恵とお父さんは、後部キャビンのベッドが空いていないので、キャビン中央左右の長ソファにそれぞれ毛布を敷いて寝ていた。

「さあ、出航しようか」

次の日の朝、お父さんはヨットを操船して三崎漁港を出航した。

今日は、これから横浜のヨットクラブに帰港するのだった。夜までには、横浜のヨットクラブに着けるだろうから、今夜は久しぶりに自宅の自分たちのベッドで眠れるだろう。

「赤い船が走っているよ」

ゆみは、目の前を走っている大型船を見つけて言った。

「あれは東京湾フェリーだ。そこの久里浜港から向こう側の千葉の金谷って町まで向かうフェリー船だ」

「千葉・・」

「この間まで、ゆみもずっと居た場所だよな」

お父さんは言った。

「フェリーって自動車とかも乗せているの?」

「うん。千葉に家がある人で、神奈川にドライブで遊びに来た人とかは、自分の車も船に乗せて帰るんだろうね」

「へえ」

フェリーとすれ違った後、しばらくヨットは走っていたが、浦賀で途中の港に立ち寄った。浦賀にある高知屋マリーナというマリーナのポンツーンにお父さんはヨットを着けた。

「もう到着?」

ゆみは、お父さんに聞いた。

「いいや、ここでお昼にしよう」

高知屋マリーナのポンツーンでヨットを降りると、マリーナ内にあるレストランの中に入った。

「何を食べる?」

「カレーにしよう。横須賀に来たら、横須賀カレー」

お父さんは、皆に何を食べるか聞いておきながら、カレーが良いと自分で決めてしまっていた。

「ここ、横須賀なの?」

土地勘のないゆみは、お父さんに聞いた。

「横須賀だよ。浦賀っていうのはペリーって黒船が来たってところだよ」

「ああ、依田先生が言っていた」

「依田先生?」

「依田先生って、ゆみちゃんの学校の世界史の先生なのよね」

お母さんが、お父さんに補足した。

「そんなこと言っていたっけ?」

同じ学年のはずの祥恵は、ペリーの話を世界史で習ったかどうかすっかり忘れていた。

「なに、祥恵は覚えていないのか?ゆみは、ちゃんと学校で習ったこと覚えているというのに」

お父さんが、祥恵に言った。

「っていうか、私は習っていないかもしれない」

祥恵は、お父さんに言った。

「ゆみは4組だもの。私、1組だから。1組はまだ習っていないかも」

祥恵はつけ加えた。

「クラスでもって、習う内容って言うのは違うものなのか?」

「うん。最終的には同じ内容を習うことになるかもしれないけど、習う順番は違うかもしれない」

祥恵は、苦し紛れに説明した。

「横須賀カレー4つで宜しいですか?」

ウエイターさんが注文を取りに来た。

「はい。あと1つは辛くないようにしてください」

お母さんがウエイターに注文した。

「辛くないって私?」

ウエイターがいなくなった後で、祥恵はお母さんに聞いた。

「違うわよ。ゆみよ。祥恵は別に辛くても大丈夫でしょう?」

「うん、大丈夫だよ」

祥恵は答えた。

「お母さん、見て。京急電車で帰っても横浜まで行けるみたいだよ」

ゆみは、カレーを食べ終わった後で、マリーナの入り口にあった京急のパンフレットを見て言った。

「本当ね。ゆみちゃん、お母さんと電車で帰ろうか?」

「うん」

そして、浦賀から横浜までの帰りのヨットは、お父さんと祥恵の2人だけで帰ることになった。ゆみとお母さんは、高知屋マリーナからバスで浦賀駅まで出て、そこから京急線に乗って横浜まで帰ってきた。

「ただいま!」

「おかえり」

横浜駅のところで、お父さんが運転する車と再会して、そこからは家族4人で車に乗って、東京の東松原まで帰ってきた。時間は遅くなってしまって、東松原に着いたときは、もう9時半になっていた。夜9時には寝てしまうゆみは、自動車の中でぐーぐー眠ってしまっていた。

「なんかぜんぜん重くならないな」

寝ているゆみの身体を抱いて、車からベッドに連れていくお父さんは、ゆみのことを言った。

「それでも、少しずつゆみも成長しているわよ」

お母さんは、お父さんに言った。これで、8年生の夏休み、ヨットのクルージングの旅は終わったのだった。それから、しばらくゆみは、お父さんのヨットには乗りに行かなくなってしまうのだった。次、ゆみがヨットに乗りに行くようになるのは、「女子大生日記」の中でのことだった。

淳子の彼氏につづく

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