今井ゆみ X IMAIYUMI

多摩美術大学 絵画科日本画専攻 卒業。美大卒業後、広告イベント会社、看板、印刷会社などで勤務しながらMacによるデザイン技術を習得。現在、日本画出身の異色デザイナーとして、日本画家、グラフィック&WEBデザイナーなど多方面でアーティスト活動中。

二連覇

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「もう、皆あつまっているよ!」

「4組、向こうだってよ」

まゆみと麻子は、4組の皆が会場の奥のほうに整列しているのを発見して、叫んだ。

「ゆみ、何をしているの?行くよ!」

ゆみは、麻子たちに呼ばれて、祥恵の手を離すと、そっちに向かって走って行く。ゆみのバッグの口からは、ブータ先生が飛び上がったり跳ねたりしていた。

「ほら、ブータ先生を落っことすよ」

祥恵は、麻子たちと走っていくゆみの後ろ姿に笑顔で声をかけていた。

「ゆみちゃん」

「え、うん。ゆり子、おはよう」

祥恵がゆみの走っていく姿を見ていたら、いつの間にかゆり子がやって来ていた。

「ゆみちゃん、なんか、まゆみや麻子とすっかり仲良しだよね」

「ね、8年になるときは4組なんか行かないって大騒ぎだったのにね」

祥恵は、自分の妹の成長を嬉しそうに眺めていた。

「ブータ先生、バッグから飛び跳ねているように見えない?」

「見える!」

祥恵は、ゆり子に言われて返事した。本当に、ブータ先生は、ゆみの走りに合わせて、自分でもバッグの中で飛び跳ねていたのだが。

「あんなに走ったら、ブータ先生がバッグから落ちるって。ゆり子、ごめんね。ゆり子のぬいぐるみなのに、あんな乱暴に扱って・・」

「ぜんぜん。っていうか、ブータ先生は、私のぬいぐるみじゃないし。私がゆみちゃんに上げたんだから、もうブータ先生は、ゆみちゃんのぬいぐるみなの」

ゆり子は、祥恵に答えた。

「そうだよね。なんでだろう?他のぬいぐるみで、誰かにもらったものって、もらった人に返したりしないのに、どうしてブータ先生だけは、時々ゆみからゆり子に返したりするんだろうね?」

「ね、私もわかんない」

ゆり子は答えた。

「でもさ、時々ブータ先生って本当にゆみちゃんとおしゃべりしているんじゃないかなって思えるときが、私にもあるんだけど」

ゆり子は、真顔で祥恵に言った。

「え、本気で言っている?」

祥恵は、思わずゆり子に聞き返した。

「え、いや。そんなわけあるわけないじゃない」

ゆり子は、慌てて祥恵に言い直した。

「それは、そうだよね」

祥恵も、ゆり子にそう返事したが、2人ともなんとなく心の中では、本当にゆみとブータ先生は、おしゃべりしているのではないかと思っていた。

「まもなくスタートです!」

マラソン大会の運営委員がマイクで話している。その声で、マラソン上位を狙っている選手たちは一斉にスタートライン前方に並び始めた。祥恵も、スタートラインのなるだけ前の方に位置を取った。

「ゆみ。先生と向こうのテントの中で見ていよう」

大友先生は、ゆみに声をかけた。

まゆみや麻子は、走るためにスタートラインの位置についていた。

「先生。今年はお手伝いとかしないの?」

ゆみは、大友先生と一緒にテントの下の日陰に座りながら、質問した。

「お手伝いは7年生の担当だろう。ゆみも、もう8年生なんだから今年はお手伝いしなくても大丈夫だ」

「そうなんだ」

「それに、今日は特に陽差しが強いから、ここの日陰にいたほうが身体にも良いだろう」

ドーン!

スタートの合図を知らせるピストルの音が公園に響いて、選手たち皆は走りはじめた。

「祥恵、ガンバ」

ゆり子や美和たちは、祥恵に声援をかけてから自分たちは後ろの方の組からゆっくりとスタートしていった。祥恵は、ゆり子や美和たちに手を振ってから、颯爽と先頭の組の中を走っていく。

中間より後ろの辺りを、ジャージ姿の良明も走っていた。狭山湖の一周は、早いとだいたい3時間ぐらいで回ってきてしまう。祥恵などのタイムがだいたいそのぐらいだ。遅い組になると、4,5時間ぐらい掛かって一周してくる。

「ねえ、お腹減った。どこかでお昼食べて行こうか」

「うん、そうだね。あそこにベンチがあるよ」

走るのが遅い方の組のランナーにとっては、順位なんてぜんぜん気にしていないので、マラソンの途中でベンチに腰掛けて、お弁当を広げて食べ始めたりしていた。

「腹、へってきたな」

良明も、1人マラソンコースを走りながら思っていた。

「そろそろ食事にしようか?」

「いいね」

ちょうど良明の前を走っていたランナーたちがコースを外れると、ベンチに座ってお弁当を食べ始めていた。

「なんだ、マラソンの途中でもお昼を食べてもいいのか」

彼らの横を通り過ぎるとき、良明は彼らのことをチラッと見ながら考えていた。

「もう少し、あの前を行く人たちを追い抜いて、差をつけて自分1人だけでコースを走るようになったら、どこかで昼ごはんにしよう」

良明は、前を走っているランナーたちを追いかけながら思っていた。そして、彼ら前方を行くランナーたちを追い抜き、引き離しにかかる良明だった。

「あ、なに。良明じゃん」

栗原淳子は、一生懸命走っていたおかげか、必死で引き離しに掛かっている良明の姿が前方に見えてきた。

「あいつに追いついたら、一緒に走れるな」

1人で走っていた栗原淳子は思った。1人で走っているよりも、誰かと一緒に走っている方が疲れを感じずに走れるではないか。必死で、前を行く良明に追いつこうと走っているのだが、前を行く良明は、さっき追い抜いたランナーたちを引き離そうと走っているので、なかなか追いつけないでいた。

「あいつ、早いな」

前を行く良明の姿を追いながら、栗原淳子は思った。と、前を行く良明の姿が突然消えた。

「え?」

栗原淳子は、良明が消えた辺りまで走ってきて、良明の姿を探した。

「まさか」

栗原淳子は、良明の消えた辺りの先にあった茂みの中に入ってみた。が、そこに良明の姿は無かった。しばらく、その辺りをキョロキョロと良明の姿を探していると、

「あ、良明!」

その少し前の茂みから突然、良明の姿が現れて、マラソンのコースを走りはじめていた。心なしか走っている良明の姿が、さっき見失った前より元気になっているように見える。

「あ、良明!」

栗原淳子は、急いで良明に追いつくと、横に並んで走りはじめた。

「あんたさ、そこの茂みの中で隠れてお弁当食べていたでしょう?」

良明は、図星なことを栗原淳子に聞かれて驚いた顔をしていた。

「やっぱりね。こんなところまで隠れて食べなくても良いじゃん」

そう言うと、栗原淳子は、その後はずっと良明と並んでゴールまで完走した。

「1位です!」

良明たちが走っているそのずっと前に、ゴールラインに走り終えて戻ってきた祥恵は、ゴールのテープを切っていた。

「お姉ちゃん、また勝った!」

ゆみは、戻ってきてゴールする祥恵の姿を見て言った。

「おまえのお姉ちゃん、運動は本当にすごいな」

大友先生も、祥恵のことを褒めてくれていた。

お母さん見学につづく

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