今井ゆみ X IMAIYUMI

多摩美術大学 絵画科日本画専攻 卒業。美大卒業後、広告イベント会社、看板、印刷会社などで勤務しながらMacによるデザイン技術を習得。現在、日本画出身の異色デザイナーとして、日本画家、グラフィック&WEBデザイナーなど多方面でアーティスト活動中。

お母さん見学

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「お母さん、お姉ちゃんってすごいんだよ!優勝したんだよ!」

ゆみは、マラソン大会から家に帰ると、すぐにお母さんに報告していた。

「だから、ゆみ。なんで、あんたが走ったわけでも無いのに、そんなお母さんに自慢しているのよ」

祥恵は、ゆみに言った。

「別に良いじゃないね。ゆみちゃんは、お姉ちゃんのことが大好きなんだものね」

「うん」

ゆみは、お母さんに頷いた。

「で、祥恵は優勝だったの」

「え、まあね」

祥恵は、お母さんに素っ気なく答えた。

「なんだか優勝した祥恵よりも、ゆみの方が嬉しそうに報告してくれるんだけど」

お母さんは、素っ気ない態度の祥恵に言った。

「だって、そんな中学生にもなったら、いちいち学校で会ったことなんて、お母さんに報告したりしないよ」

「そうかしら。ゆみなんて、いつもお母さんに報告してくれるけど」

お母さんは、大人びた祥恵の態度にちょっと寂しそうだった。

「はい」

祥恵は、マラソン大会の会場で表彰されたときにもらった表彰状を、お母さんに渡した。

「うわ、すごい!本当に1位って書いてあるじゃない!名前にもちゃんと今井祥恵って書いてあるし」

お母さんは、わざと大げさに喜んでみせてくれた。

「額に飾らなきゃね」

「本当ね」

ゆみが、表彰状を覗きこんで言うと、お母さんも賛成した。

「額なんていいよ。ただの学校のマラソン大会だし」

祥恵は、自分の部屋に上がっていってしまった。

「で、なに?ゆみは今度、合唱祭でピアノを弾くんだって?」

3人の会話を横で聞いていたお父さんが、ゆみに聞いた。

「うん。4組のピアノの担当なの」

「お母さんは、その合唱祭っていうのに見に行くのか?」

「ええ、もちろん」

お母さんは答えた。

「平日か?」

「平日です。木曜日」

お母さんは、お父さんに答えた。

「俺も行こうかな」

お父さんが、ポツリと答えたので、ゆみもお母さんも驚いて、お父さんの顔を見た。

「お父さんも来るの?」

「うん。行ったらだめか?」

「ううん。いいよ!来て!来て!」

ゆみは、お父さんに返事した。

「でも、お父さんはお仕事は大丈夫なの?病院は?」

「そうなんだよな。病院、お休みにしちゃおうか?」

お父さんは、ゆみに言った。

「うーん、どうするかな?明日でも、陽子ちゃんとか衛生士の皆とも相談してみるか」

お父さんは、ゆみから受け取った合唱祭の案内を見ながら悩んでいた。

「本当に、あなたも行きたいんですか?」

お母さんが、お父さんに聞いた。

「え」

お父さんは、お母さんのことを見た。

「ああ、行きたいよ。お母さんなんて、いつもゆみの何かがあるっていうと病院をお休みしているだろう。ゆみは、お父さんにとっても大事な娘なんだけどな。たまには、お父さんも、ゆみの学校に見に行きたいよ」

お父さんはつぶやいた。

「それでしたら、私と半分ずつにしましょう」

お母さんは、お父さんに提案した。

「例えば、私が午前中、病院をお休みして、ゆみの合唱祭を見に行ってお昼までに帰ってきますから、午後は交代で、あなたが病院を休んで、ゆみの合唱祭を見に行ってあげてくださいよ」

「そうか。そういう手もあるか」

お母さんの提案に納得しかかっているお父さんだった。

「ええ、ちょっと待ってよ。お父さんも合唱祭に見に来るの?」

冷蔵庫のお茶を飲みに降りてきた祥恵が、2人の話を聞いて質問した。

「ああ、せっかくゆみがピアノを弾くと言うし、久しぶりに学校見学も良いかなって」

「マジで、お父さんも来るの?」

祥恵は、ちょっと嫌そうだった。

「何を言っているの。お母さんも、お父さんも別に祥恵の学校を見に行くわけじゃないのよ。ゆみの学校を見に行くだけなんですけど」

お母さんは、祥恵に言った。

「でも、ゆみの学校ってことは同じ学年の私の学校でもあるわけじゃない」

「別に、あなたのことは見ませんよ」

親にあまり学校に来てもらいたくない祥恵に考慮して、お母さんは言った。

「いや、俺はどうせゆみの学校に行くのなら、祥恵の合唱祭も見たいけどな」

お父さんは、祥恵に言った。

「ええ、で、何。ゆり子のうちは、お母さんが合唱祭に見に来るんだ」

「そう、そうなのよ」

ゆり子と美和は、学校の昼休みにおしゃべりしていた。

「ゆり子、お母さんが見に来るぐらいなら、まだ良いじゃん」

祥恵は、ゆり子に言った。

「え、なんで?」

「うちなんて、お母さんだけじゃないよ。お父さんも来るんだって」

「マジで?」

「マジ!」

祥恵は、2人に答えた。ゆみが4組で合唱祭のピアノを弾くからと、2人とも合唱祭に来ることを張り切ってしまっていてと説明した。

「そうか」

「それじゃ、ゆみちゃんはお母さんも、お父さんも見に来るって大喜びだね」

「まあね。おかげで、こっちは大迷惑」

祥恵は、首を横に振ってみせた。

9年生の進路につづく

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