今井ゆみ X IMAIYUMI

多摩美術大学 絵画科日本画専攻 卒業。美大卒業後、広告イベント会社、看板、印刷会社などで勤務しながらMacによるデザイン技術を習得。現在、日本画出身の異色デザイナーとして、日本画家、グラフィック&WEBデザイナーなど多方面でアーティスト活動中。

小汀くん

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「あれ、何をやっているの?」

ゆみが野口先生と図書室でおしゃべりをしていると、後ろから声をかけられた。

「あ、小汀くん」

ゆみが振り返って、答えた。

「あの、これ、ありがとうございました」

小汀は、大量に抱えた本を、野口先生に渡しながら言った。

「あ、はいはい」

野口先生は、小汀から受け取った本の返却手続きをしていた。

「うわ、さすが!部長!」

ゆみは、小汀が返却した本を見て叫んだ。返却した本は、全て宇宙とか天文に関する本ばかりだったのだ。

「え、ちょっと。ゆみちゃん、こんなところで部長とか恥ずかしいじゃん」

小汀は、少し慌てたように、ゆみに言った。

「あら、別に良いじゃない。部長って恥ずかしがるような役職じゃないわよ。何かの部長なの?」

野口先生が、小汀に聞いた。

「そうなの。うちの部の部長なの」

小汀の代わりに、ゆみが野口先生に答えた。

「え、ゆみちゃんって部活やっているの?」

「うん、天文部なの。だけどユーレイ部員なんだけどね」

ゆみは、野口先生に笑いながら答えた。

「そうなんだ。天文部なの」

野口先生は、ゆみに答えた。

「で、そちらさんは部長さん?」

「はい」

小汀は、野口先生に返事した。

「部長さん、ゆみちゃんは、とっても良い子だから優しくしてあげてね」

野口先生は、小汀に頼んだ。

「あ、はい。わかっています」

小汀は、野口先生に答えた。

「小汀くんは、あたしと同じ4組なんだよ」

ゆみが、野口先生に言った。

「あ、そうなの。同じクラスなの。だったら安心ね」

野口先生は、ゆみに笑顔で答えた。

「ずっと、ここにいたんだ」

小汀は、ゆみに聞いてきた。

「うん。麻子たちが、今日はソーラン節の練習で吉祥寺に行ってしまっているから。お姉ちゃんの部活が終わるまで、ここにいようと思って」

「あ、そうか」

「小汀くんは、ソーラン節の練習はしないの?」

「ああ、するよ。体育の時間にね」

「そうだよね。小汀くん、あんまり運動とか得意じゃないものね」

「そんなことはないよ。結構、こう見えて、いろいろ運動するんだよ。バトミントンとか」

小汀は、ゆみに答えた。

「そうなんだ。あたし、運動は全くだめ」

「それは仕方ないよ」

小汀は答えた。

「じゃ、ちょっと本を探してくるね」

「うん、行ってらしゃい」

ゆみは、図書室奥の書棚に本を探しに行く小汀に手を振った。

「あたし、本だったら小さい頃からいつも読んでいたし、けっこう好きなんだ」

ゆみは、本の整理をしている野口先生の姿を見ながら言った。

「そうよね。ゆみちゃんは、小等部の頃から、いつも図書室に来ていたものね」

「ね、先生。図書室のお仕事って大変?重たいものも持ったりするの?」

ゆみは、野口先生に聞いた。

「そうね、大きな本とか重たい本もいっぱいあるでしょう。そういう本も移動しなきゃならないから、けっこう体力は必要よ」

「そうか・・」

ゆみは、少し寂しそうに答えた。

「どうして?」

「あたし、図書室のお仕事って力とか必要ないなら、大きくなったら図書室とか図書館のお仕事しようかなって思っていたから」

ゆみは、答えた。

「そうか!」

野口先生は嬉しそうに答えた。

「ゆみちゃんは、お勉強とか好きでしょう。本とかを扱う図書館のお仕事、ぴったしかもしれないよ。重たい本とか動かすときは、ちょっと男の先生、呼んできて運ぶの手伝ってくださいって言えば良いのだもの」

野口先生は、自分の仕事と同じ仕事になりたいと言われて嬉しそうだった。

「これ、お願いします」

書棚で選んできた本を持って、小汀が戻ってきた。

「はい」

野口先生が、本の貸し出しの手続きをしていた。

「また宇宙の本だね」

ゆみが、小汀の持ってきた本を覗きこんで言った。

「なんか、どうしても選んでいると天文に関係した本ばかりになちゃうよ」

小汀は、ゆみの隣の席に座りながら、話しかけてきた。

「お茶でも飲む?」

野口先生は、貸し出しの手続きを終えた本を、小汀に手渡しながら言った。

「え、お茶なんてあるんですか?」

「特別よ」

野口先生は、図書室の事務室奥のコーヒーマシンからカップにコーヒーを3個分持って、やって来ると、ゆみたちにも手渡してくれた。野口先生と小汀は、コーヒーの入ったカップだが、ゆみの分には紅茶が入っていた。野口先生は、ゆみがコーヒーは苦くて飲めないことを知っているのだった。

「先生って、ゆみ君と仲が良いのですか?」

小汀が、頂いたコーヒーを飲みながら聞いた。

「そうね。ゆみちゃんとは長いわよ。小等部の頃からずっと図書室で一緒だったから。あ、その前からだったかな。小等部に入る前の、お姉ちゃん、祥恵さんに会いに来ていた頃からだったからね」

野口先生は、小汀に答えた。

「へえ、そうなんですね。なんか野口先生だけでなく、音楽の馬宮先生とか、宮本先生とか、ゆみ君っていろんな先生と仲が良くて羨ましいなって思ってたんです」

小汀は言った。

「ああ、そうね。ゆみちゃん、人懐っこくて可愛いからね」

野口先生は言った。

「え、でも宮本先生って、今年入ったばかりの新人の先生でしょう?」

「ええ」

「宮本先生は、うちのクラスの副担任なんです」

ゆみが、野口先生に答えた。

「あ、そうなの」

野口先生が答えた。それから、3人は、しばらく図書室でおしゃべりをしていた。時刻は5時を過ぎていた。女子バスケ部の練習は、とっくに終わって、祥恵は、ゆみがどこにいるのか校内を探し回っていた。

迷子のゆみにつづく

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