今井ゆみ X IMAIYUMI

多摩美術大学 絵画科日本画専攻 卒業。美大卒業後、広告イベント会社、看板、印刷会社などで勤務しながらMacによるデザイン技術を習得。現在、日本画出身の異色デザイナーとして、日本画家、グラフィック&WEBデザイナーなど多方面でアーティスト活動中。

迷子のゆみ

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「あの、ゆみを知りませんか?」

祥恵は、職員室の前にいた宮本先生に声をかけた。

「え、ゆみちゃん?ホームルームのときには一緒だったんだけど、もう帰ったのじゃないかしら?それとも、麻子ちゃんが、湯川さんたちと一緒にソーラン節の練習に行っているはずだから、一緒に行ったのかしら?」

宮本先生は、祥恵に返事した。

「え、帰るはずはないんだけど。私が一緒じゃないと、あの子、家に1人で帰れないから」

祥恵は、宮本先生に言った。

「え、そうなの?」

「はい」

「じゃ、お姉ちゃんがいつも一緒に、学校の行き帰りはくっついて通学しているの?」

「そうなんです」

「あらあら、それは、お姉ちゃんは大変ね」

「ええ」

祥恵は、苦笑しながら宮本先生に答えた。

「ちょっと待って。麻子ちゃんに聞いてあげる」

宮本先生は、祥恵に言うと、職員室の中に入って、電話の内線で吉祥寺の麻子を呼び出してくれた。

「あ、麻子ちゃん」

「宮本先生、どうしたの?」

「そっちに、ゆみちゃんいる?お姉ちゃんが、ゆみちゃんのこと探しているんだけど」

「いいえ。ゆみなら、たぶん学校の中で、祥恵の部活が終わるのを待っていると思うんですけど・・。音楽室の馬宮先生のところかな?」

「あ、ありがとう。練習がんばってね」

「はーい。なんか疲れた」

麻子は、宮本先生に甘えた声を出した。

「ゆみちゃん。向こうには行っていないみたいよ。学校で、お姉ちゃんのことを待っているだろうって話だったわ」

「そうですか。ありがとうございます。ちょっと探してみます」

祥恵は、宮本先生と別れて、音楽室の方に歩き出した。

「ね、待って」

宮本先生が、祥恵の後を追ってついてきた。

「先生も探すわ。心配だから」

「え、でも、先生ってお仕事あるんじゃないですか?」

「うん。これから職員会議なんだけど。まだ30分ぐらい時間あるから」

宮本先生は、祥恵と並んで歩きながら答えた。

「たぶんね。木工室かもしれない」

宮本先生は、祥恵と歩きながら言った。

「ゆみちゃん、すごいのよ。女の子は家庭科の授業なのに、木工の先生に気に入られて、男子の木工のクラスの卒業制作まで制作しているのよ」

「なんか、そうらしいですね。ゆみから聞きました」

祥恵は、宮本先生に答えた。木工室の前まで来ると、宮本先生が先に立って、木工室の中に入っていく。

「こんばんわ」

宮本先生は、木工室の中に入ると、そこで作業をしていた男子生徒に声をかけた。

「こんばんわ」

「あの、うちのクラス、9年4組のゆみちゃん来ていないかしら?」

「今日は来ていません。今日は先生がお休みの日なので、彼女は来ていないです。先生がいないと、大きな機械とか動かすとき、彼女1人だと動かせないんで」

「あ、そうよね。ありがとう」

宮本先生と祥恵は、部屋の中にいた男子生徒にお礼を言うと、木工室を出た。

「あとは音楽室かな」

「行ってみます」

2人は、音楽棟に移動すると、中に入った。合唱室と合唱室の間にある音楽職員室のドアをノックして、室内に入る。

「あ、宮本さん」

中にいた大友先生が、宮本先生の姿に気づき、声を掛けた。

「僕が遅いんで、迎えに来てくれたのかな?」

「あ、いいえ。違います。ゆみちゃんが行方不明なんで、ここに来ているかなって思って」

宮本先生は、大友先生に答えた。大友先生は、これから始まる職員会議の準備を急いでいるところだった。

「ゆみちゃん?今日はここには来ていないわよ」

馬宮先生が、宮本先生に答えた。

「あ、そうですか」

宮本先生は、ゆみの場所が探し出せなくて、副担任として悔しそうだった。

「ゆみちゃん、いないの?」

「ええ。部活が終わったので帰ろうと思って探していたんです」

「木工室は?」

「さっき、来る途中に寄ってきたんですけど、いませんでした」

祥恵が答えた。

「そうね。あと、ゆみちゃんが行きそうなところと言えば・・」

馬宮先生は、少し考え込んでから、

「図書室は?図書室の野口先生のところにいるんじゃないかしら?」

「ああ、野口先生のところかもしれない」

祥恵は、馬宮先生に言われて、気づいたようだった。祥恵が音楽室を出て、図書室に行こうとすると、

「待って。確認してあげる」

馬宮先生が、内線で図書室に確認を取ってくれた。

「いるって。図書室でおしゃべりしていたみたいよ」

馬宮先生は、内線電話を切ると、祥恵に言った。

「ありがとうございます」

祥恵は、馬宮先生にお礼を言った。

「さすが、馬宮先生は、ゆみちゃんと長いから、行く場所をよくご存知なんですね」

宮本先生が、自分が発見できなかったことを悔しそうに言った。

「それは、私とゆみちゃんは小等部の頃からずっと長いですからね」

「そうなんですね。私なんか、彼女の副担任なのに、まだまだだな」

宮本先生は、馬宮先生に言った。

「副担任。職員会議行きますよ」

「あ、はい」

宮本先生は、大友先生に声を掛けられて、一緒に職員会議に出席するために、音楽室を出た。

「あ、私も迎えに行かなくちゃ」

祥恵は、馬宮先生にお礼を言うと、音楽室を出て、図書室にいるはずのゆみを迎えに向かった。図書室では、ゆみが祥恵の部活が終わるのを待ちながら、小汀と野口先生とおしゃべりをしていた。

夏休み前につづく

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