今井ゆみ X IMAIYUMI

多摩美術大学 絵画科日本画専攻 卒業。美大卒業後、広告イベント会社、看板、印刷会社などで勤務しながらMacによるデザイン技術を習得。現在、日本画出身の異色デザイナーとして、日本画家、グラフィック&WEBデザイナーなど多方面でアーティスト活動中。

77 ゆり子先生

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「久しぶり!」

ドアを開けると、中山ゆり子は、夕子たちのことを出迎えた。

今夜の夕食は、夕子と夕子のお母さん、それに朋子、隆、ゆみの5人で中山ゆり子先生の家で食事をしようと招かれたのだった。

「朋子ちゃん、まだ身長のびた?」

中山ゆり子先生は、朋子に言った。

「ゆみちゃんは、相変わらず小さいままね」

ゆり子先生は、朋子を見た後、ゆみに視線をやると答えた。それから、夕子のことを見た。

「夕子ちゃんは当時から大きかった子だったけど、また大きくなったわね」

ゆり子先生は、自分の背丈よりも大きい夕子の顔を見上げながら、言った。

中山ゆり子先生は、正確にいえば職業は先生ではなかった。クイーンズに校舎が在る全日制の日本人学校、そこの受付で学校事務の仕事をしている事務員さんだった。中山ゆり子は、隆やゆみたちと同じに、日本よりもニューヨークでの暮らしの方が長く、日本人学校だけでなく過去にリバーデールのPS.24公立小学校でも、学校事務の仕事を兼任していたことがあった。

PS.24公立小学校は、夕子がニューヨークに住んでいた頃、朋子やゆみと一緒に通っていた小学校だった。当時はPS.24公立小学校の在るリバーデールには日本人家族が多く住んでいて、PS.24公立小学校に通う日本人の生徒の数も多かった。そのため、中山ゆり子は、クイーンズの日本人学校とPS.24公立小学校の学校事務を兼任していたのだった。

その後、リバーデールの治安が悪化して、日本人家族は皆、フォートリーやクイーンズの方にお引越をしてしまったため、PS.24公立小学校に通う日本人生徒の数もいなくなり、今は中山ゆり子もクイーンズの日本人学校の学校事務の仕事だけに専任するようになったのだった。

「本当に、夕子ちゃんも久しぶりだけど、ゆみちゃんも久しぶりだわ」

ゆり子先生は、夕子とゆみのことを懐かしそうに抱きしめた。

ニューヨークから日本へ帰国してしまった夕子はもちろん、ゆみも現在は日本人生徒の誰もいないマンハッタンの女子高校に通っているので、ゆりこ先生と会うのは久しぶりなのであった。

フォートリーに引っ越して、クイーンズの日本人学校に通うようになった朋子だけは、ゆり子先生とも学校でよく会っていた。

「そうか。朋子ちゃんは、いつも学校で、ゆり子先生とも会っているんだものな」

隆は、ゆり子先生と会っても懐かしそうにはしていない朋子の姿を見た。

「うん。毎朝、学校に行く度に会っているもの」

朋子は答えた。

「いいな」

ゆみは、朋子に言った。

「いいな?ゆみちゃんも日本人学校に通いたかった?」

夕子は、ゆみの言葉に反応した。

「うん、いい。なんか楽しい!だって、日本人のお友だちと会うのものすごく久しぶりなんだもの」

ゆみは、夕子に言った。

「ごめんな。俺の稼ぎがもう少し良ければ、ゆみにも日本人学校に通わせてあげられたのにな」

隆は、それを聞いて言った。クイーンズの全日制の日本人学校は、日本人の有志で設立、運営されている私立の学校だったため、公立と違い、学費が高いのだった。

「ゆみも、初めから日本人学校に通っていれば、もっと普通に日本語も話せたんだろうな」

隆は、少し寂しそうに言った。当のゆみは、それは日本語が上手に話せたら嬉しいだろうし、日本語の文字がまったく書けないし、読めないのは寂しいのだが、それでも、その代わりに英語の本はかなり難しい本まで読めて理解できるし、アメリカ人たちと一緒の学校に通っている分には、日本語出来なくてもぜんぜん不自由はしていなかった。

「ゆみちゃん、これ食べてみて」

ゆり子先生は、自分で作ったお手製のスモークチキンを、ゆみに薦めた。

「いただきます!」

「夕子ちゃんも、ぜひ食べていって」

ゆり子先生に言われ、夕子も出された食事を口にしていた。

「夕子さん、良明君ってちゃんとごはん食べてる?」

ゆみは、夕子が食事をする姿を見ながら、思い出したように質問した。

「え、食べているんじゃないの」

夕子は、ゆみの質問の意味が理解できないで答えた。

「それは食べているに決まっているだろう。あれは、アメリカの学校だったからの話だろう。ね、ゆり子先生」

隆は、ゆみに言った後で、ゆり子先生にも同意を求めた。

「さあ、どうなのかしら?先生も実はちょっと心配・・」

ゆり子先生が答えた。夕子は、2人の会話の意味がわからないでいた。

「夕子。良明って、ゆみちゃんと同じクラスだったんだけど、いつも学校のお昼の時間にお弁当を自分で食べられなくて、ゆみちゃんが食べさせてあげていたのよ」

朋子が、夕子に説明した。

「え、本当に?」

朋子が聞いて、夕子は驚いた。

良明が、学校でゆみにお昼の弁当を食べさせてもらっていたなんて。今の明星学園では、良明ってお昼の弁当をどうしていたかな?夕子は、良明がお昼を食べるのどうしているかなんて気にもしていなかったので思い出せずにいた。

「そういえば、お昼のときに良明が教室でお弁当を食べているの見たことなかったな」

夕子はつぶやいた。

「日本に戻ったら、夏休み明けに淳子に聞いてみるわ」

「淳子って?」

「2組のクラスの女の子なんだけど。けっこういつも良明と仲良くしているのよ」

「へえ、そうなんだ。仲の良い女の子が出来たんだ」

朋子は、その話をゆみに話して聞かせた。

「え、良明君に?淳子さんっていうの。良かった!仲の良いお友だちができて」

ゆみは、朋子から良明の話を聞いて、嬉しそうに笑った。

「もしかしたら、その淳子さんって子が、日本での良明君のゆみちゃんみたいな関係なのかもね」

朋子も笑顔で言った。

美香ちゃんにつづく

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