今井ゆみ X IMAIYUMI

多摩美術大学 絵画科日本画専攻 卒業。美大卒業後、広告イベント会社、看板、印刷会社などで勤務しながらMacによるデザイン技術を習得。現在、日本画出身の異色デザイナーとして、日本画家、グラフィック&WEBデザイナーなど多方面でアーティスト活動中。

78 美香ちゃん

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H・E・L・L・O

ゆみは、ゆり子先生の家から兄の隆と一緒に自宅に戻ってからLINEで日本にいる美香にメッセージを送っていた。

「今日は、夕子さんって美香ちゃんがまだニューヨークに来る前に、ニューヨークに住んでいたお姉さんと会いました。夕子さんとは、朋子ちゃんも一緒にゆり子先生のお家でごはんを食べました」

ゆみは、日本語が読めないし、書けないので英語でメッセージを打っていた。

「へえ、ゆり子先生に会ったんだ・・」

日本にいる美香は、ゆみからのLINEのメッセージを読んで思った。

「ね、お母さん!これ、どういう意味?」

美香は、自分のスマホを持って、台所にいるお母さんのところに行くと、そこでお母さんに質問した。

「どれどれ、ゆみちゃんは夕子さんって方とゆり子先生のお家に行ったんですって」

「そこは、わかってる・・その先」

「ああ、えーと・・あら、良明、お兄ちゃんと夕子さんっていうのは今は、日本で同じ学校の、同じクラスなんですって」

お母さんも、自分の知っている英語の単語を一生懸命思い出しながら、ゆみの書いたメッセージを日本語に訳してくれていた。美香も、ニューヨークで暮らしていた頃は、現地の学校に通い、アメリカ人のお友だちと英語で話し合うほど話せていたのだが、日本に戻って、英語を話さなくなったら大分忘れてしまったようだった。

「え、そうなの?」

美香は、ゆみのメッセージに驚いた。

「お兄ちゃんと同じクラスの人が、ゆみちゃんとニューヨークで再会していたんだ」

「本当ね、すごい偶然ね」

お母さんは、美香に言った。

「美香。あなたも、中学に入ったら英語の授業も始まるのだから、せっかくニューヨークで暮らしていたんだから英語、忘れるんじゃなくて少しは思い出すようにしなさいよ」

「はーい」

美香は、お母さんに答えた。

「お兄ちゃん、お兄ちゃんの学校に夕子さんって生徒いるでしょう?」

その日の夕食のとき、美香は兄の良明に質問した。

「夕子?そんなやついないよ、なんで?」

良明は、妹の美香に返事した。

「うそ!いるでしょう?夕子・・」

美香は、自分のスマホを操作し、もう一度ゆみからのメッセージを見直した。

「あ、夕子さん。小倉夕子さん」

「あ、その夕子か」

良明は、美香に言われて思いだしたように答えた。

「いるよ。いるけど、なんで?」

「今日ね、ニューヨークのゆみちゃん。ゆみちゃんからあたしのLINEにメッセージが来て、夕子さんと再会して、ゆり子先生と会ったんだって」

美香は、ゆみからもらったメッセージの内容を兄に伝えた。

「ああ、そうなんだ」

「ゆり子先生。お兄ちゃんも覚えているでしょう?」

「いや、そんな名前の先生っていたっけ?」

良明は、妹からゆり子先生とゆみという名前を聞いて、咄嗟に知らない、忘れたと答えていた。良明にとって、その2人の名前は忘れようにも忘れられないニューヨークでの大切な思い出だったのに。

「うそ!お兄ちゃんが忘れるわけないじゃん。ゆり子先生だよ。ほら、ニューヨークから日本に帰国する前夜に、ゆり子先生にバイバイってほっぺにキスしてもらったじゃない!」

美香は、ニューヨークから戻ってくるときのことを思い出しながら、兄に言った。

「え、知らないよ!そんなの、ゆり子先生なんて誰だか知らないけど、そんなおばさんにキスなんてされていないし!」

良明の脳裏には、あのときの光景が浮かんでいたのだが、慌てて顔を恥ずかしさで真っ赤にしながら、妹に否定していた。

「なんでよ!本当は、お兄ちゃんも覚えているんでしょう?それで、その次の日に、空港までお見送りにも来てくれて、今度は空港では、ゆみちゃんにバイバイのキスをほっぺにされたんだよ」

「なんだよ!それ、知らないよ」

空港で、ゆみにキスされたときのことを思い出して、良明はさらに顔を真っ赤にしながら、妹に否定し続けていた。

「お兄ちゃん、そんなに照れなくたって良いじゃん。ゆみちゃん、可愛いし。そのゆみちゃんに、ほっぺにキスしてもらえたんだし、その後、お兄ちゃん、日本への飛行機の中でずっとほっぺを抑えたまま、もう一生顔を洗わないっとか言っていたんだよ」

「言ってねーよ!そんなこと」

良明は、顔を真っ赤にしてうつむいて妹に抗議していた。

「それに、いつの話だよ。あれから、もう何度も顔だって洗ってるし・・」

良明は、うつむいたまま小声でつぶやいた。

「さあさ、ごはんですよ」

お母さんが夕食をテーブルに運んできて、その話はお終いになり、美香は夕食を食べるのに集中していた。それっきり、夕食後も、その話の続きはなくなり、妹の美香は、ほかの妹たち2人と毎週見ているテレビのドラマを視聴するのに夢中になっていた。

「あのさ、美香。それで、さっきのLINEのメッセージって他に何が書いてあったの?」

あまりに美香からは続きの話がないので、ドラマを見終わった美香に、良明のほうから話しかけた。

「特には別に・・」

美香は答えた。

「ゆみちゃんが、久しぶりに夕子さんや朋子ちゃんと、ゆり子先生の家に行って食事をしたってだけ」

美香は、兄の良明に言った。

「ふーん」

「何?お兄ちゃん、ゆみちゃんの話が気になるの?」

「何でだよ。別にぜんぜん気にならないよ、ゆみなんてガキじゃん」

「ガキって。あたしと同い年なんだけど・・」

美香は、兄の言葉に反応した。

「いつもニューヨークから、そうやってやり取りしているのか?」

「うん」

「毎日?」

「毎日じゃないけど、週に一度ぐらいはやり取りするかな。ただ、ゆみちゃんは英語しか書けないじゃない。だから、英語でやり取りしなきゃならないのが、なかなか会話しづらいんだけどね」

「ああ、毎週は話しているんだ」

「うん。なんで?」

「毎週ニューヨークと電話ってお金とか大変じゃないかなって・・」

「お金は、だってLINEのメッセージだよ。通信費掛からないでしょう」

「そうか・・」

良明は、妹がゆみと会話しているという話を聞いて、なんとか妹から、俺にもゆみのLINEのアドレスを聞き出せないかと思っていた。が、結局ゆみのLINEのアドレスは、妹から聞き出すことができずに会話が終わってしまった。

良明のお弁当につづく

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