今井ゆみ X IMAIYUMI

多摩美術大学 絵画科日本画専攻 卒業。美大卒業後、広告イベント会社、看板、印刷会社などで勤務しながらMacによるデザイン技術を習得。現在、日本画出身の異色デザイナーとして、日本画家、グラフィック&WEBデザイナーなど多方面でアーティスト活動中。

79 良明のお弁当

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「夕子、お昼だよ」

夕子は、隣で一緒にお弁当を食べている美和に声をかけれらてハッと気づいた。

「え、そうだね」

夕子は、美和に言われて、自分の机の上のお母さんが作ってくれたお弁当を口に運びながら答えた。

「どうしたの?なんか、さっきから祥恵の席ばかり気にしているじゃない」

美和は、夕子に言った。

「え、私の席?」

夕子や美和、それにゆり子と一緒にお弁当を食べていた祥恵が、自分の席のほうを眺めながら、夕子に聞いた。

「ああ、別に祥恵の席を見ていたんじゃないんだ。良明の席を見ていたの」

夕子は答えた。

「良明の席?」

「うん。良明って、いつもお昼、クラスにいないけど、お弁当とかどこで食べているんだろうね?」

夕子は、空席の良明の席を見ながら言った。

「そういえば、そうだね。良明っていつもお昼は教室にいないね」

ゆり子も、そのことに気づいたように言った。

「さあ。どこか外に食べに行っているんじゃないの?」

良明のことなど、さほど興味無さそうに、美和が答えた。

「1人で?」

「わからない。2組の淳子と一緒に食べているとか?」

「そうだね。そういえば良明って最近、淳子と一緒にいること多かったよね」

美和に言われて、夕子も、良明は淳子といつもお昼を食べているのかもと思った。

「なんで、そんなに良明のこと気になるの?」

「え」

夕子は、祥恵に聞かれて返事した。

「ああ。ほら、俺、夏休みに母親の付き添いでニューヨークに久しぶりに行ってきたじゃない。そのときに、当時の朋子とかに会ってさ、朋子たちの話だと、良明ってニューヨークにいた頃、学校で1人でお昼のお弁当とか食べられなくて、いつもゆみちゃんって同じクラスの女の子に、あーんってお弁当を食べさせてもらっていたんだって」

「なに、それ。いくつぐらいのときの話よ?」

「え、たぶん小学5年生とか中1ぐらいまでの話かな。良明がニューヨークにいたのって、だいたいその頃のことだから」

「ええ!?中1とかで、クラスの女の子に、あーんってお弁当を食べさせてもらっていたの?」

「そうなんだって。朋子たちの話だと。それでさ、ちょっと良明のお昼が気になちゃって」

「確かに、それは気になるよね」

夕子たちは、食事が終わると、隣の2組の教室を覗いてみた。

「あ、淳子いるじゃん」

ゆり子は、2組の自分の席に座ってお弁当を食べていた淳子の姿を見つけて言った。

「本当だ」

「ね、淳子。いつもお昼、良明と食べているんじゃないの?」

「え、食べていないよ。クラス違うし」

「でも、お昼になると、良明ってどこかに食べに行くらしくて、1組の教室にはいないんだよね」

淳子は、夕子から、良明がニューヨークでクラスの女の子に、あーんってお昼ごはんを食べさせてもらっていたという話を聞いて驚いていた。

「それでさ、淳子も良明に、あーんって食べさせているのかと」

「そんなわけないじゃん。なんで、あたしが」

淳子は、夕子に言われて笑い飛ばした。

しかし、夕子たちが1組の教室に戻ってしまった後で、なんとなく良明のことが気になったので、2組の教室を出ると、良明の姿を探してみた。中等部の校舎の中にはいなかったので、どこか外に食べに行っているのかなと思い、中等部の校舎から表に出てみた。

「でも、どこを探したらいいんだろう?」

淳子は、中等部の校舎を出たところで迷っていた。

「気持ちいいね」

ゆみや麻子たちは、音楽職員室に来て、いつものように馬宮先生とお昼のお弁当を食べていた。いつもは、音楽職員室の端に置いてある応接セットで食べているのだが、今日は天気も良いからということで、音楽室の棟の小さな屋上に非常階段で上がって、屋上で食事していた。

「あ、見て。音楽室の裏って、こんな花壇があったんだね」

お弁当を食べ終わったゆみは、屋上の柵から下を覗きこんで言った。

「どれどれ、本当だ。花壇がいっぱいある」

「でしょう。用務員のおじさんが、ここの裏の花壇にいろいろお花を植えているのよ。お花だけでなく、野菜とかも育てているみたいで、持ち帰って食事の食材にしているみたいよ」

馬宮先生も、柵のところから下を覗きこみながら説明した。麻子も、馬宮先生も、音楽室の棟の裏にある花壇のほうを見ていたが、ゆみは、別の方角を見ていた。

「どうしたの?」

麻子は、ゆみが別の方角を見ていることに気づき、声をかけた。

「あの人、なんであんなところで1人でお弁当を食べているんだろう?」

ゆみに言われて、麻子もそっちの方角を見てみた。たぶん、うちの学校の生徒だろう。男の子が、ちょうど大きな木で囲まれた中で、1人持っているお弁当を広げて、食事をしていた。たぶん、下から見たら、周りを木に囲まれた中で食べているので誰も気づかないだろうが、今ゆみたちのいる屋上から見下ろすと、そこでお弁当を食べている姿がまる見えだった。

「本当だね。なんで、あんなところで1人でお弁当を食べているんだろうね?」

麻子も、その男の子の姿に気づいて言った。

「どうしたの?なんで、あんなところで1人ごはんを食べているのかしら?」

馬宮先生も首を傾げた。馬宮先生も首を傾げるくらいなので、少なくても小等部の生徒では無さそうだった。

「あたし、あの子、知っているよ。1組の良明って男の子だよ」

まゆみが、その男の子のことを指さして言った。

「え、1組って?私たちと同じ8年生ってこと?」

「うん」

まゆみは、麻子に聞かれて答えた。

「1組って、お姉ちゃんと同じクラスじゃない」

「そうだね。祥恵と同じクラスの子だ」

ゆみも、7年生のときは同じ1組だったのだが、あの男の子のことはあまり覚えていなかった。ゆみが8年になって4組になったときに、あの男の子も1組にクラス替えかなにかで移ったのだろうか。

秘密基地につづく

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