今井ゆみ X IMAIYUMI

多摩美術大学 絵画科日本画専攻 卒業。美大卒業後、広告イベント会社、看板、印刷会社などで勤務しながらMacによるデザイン技術を習得。現在、日本画出身の異色デザイナーとして、日本画家、グラフィック&WEBデザイナーなど多方面でアーティスト活動中。

88 三浦半島

もっと詳細を確認する

「今日は、どこに行くのかな?」

ゆみは、お母さんに聞いた。

「さあ、どこでしょう。ヨットに行ったらお父さんに聞いてごらん」

「うん。今日は近いところだといいな」

ゆみは、お母さんに言った。

タクシーが港に着くと、タクシーを降りて、昨日の岸壁に泊まっているヨットを通り抜けさせてもらってから、お父さんのヨットに移動する。

「おはよう!ゆみちゃん」

祥恵たちに言われる前に、隣りに泊まっているヨットのお姉さんに声をかけられたゆみだった。

「おはようございます!」

ゆみも元気よく挨拶をして返した。その声にキャビンの中からお父さんと祥恵が顔を出した。

「お姉さんたちも、どこかにお出かけするんですか?」

ゆみは、隣のヨットのお姉さんに聞いた。

「うちは、ずっと明後日まで、ここに泊まりっぱなしで、明後日になったら千葉の富津まで帰るのよ」

お姉さんは、ゆみに答えた。

「へえ、いいな。うちもずっとここの港に泊まっていても良いのに」

ゆみは、お母さんに言った。

「昨日、館山城まで見に行ったけど、もう時間が遅くて中も見れなかったし」

「あ、そうなの。中を見れなかったの、それは残念ね。お姉さんは一昨日行ってきて、ちゃんと中を見てきたのよ」

「へえ、広かったですか?」

「うん。広かったけど、特に珍しいものは無かったかな」

お姉さんは、ゆみに答えた。

「さあ、出航するぞ!」

お父さんのかけ声で、ゆみたちは自分のヨットに乗りこんで、ヨットは港を出航していく。

「今日は、どこに行くの?」

ゆみは、お父さんに聞いた。

「今日は、最初の予定では一番最初に泊まった保田の港に戻るつもりだったんだけど、予定変更して、三浦半島に行くつもりだ」

お父さんは、ゆみに答えた。

「三浦半島?」

「ゆみは三浦半島を知らないの?千葉じゃなくて向こう側、神奈川の方だから、帰る場所の横浜に近くなるよ」

祥恵が答えた。

「三浦半島ってお大根の・・」

「そうそう、ゆみちゃん、よく知っているじゃない。三浦半島っていえば三浦大根が有名よね」

お母さんが、ゆみのことを褒めた。

それからヨットは館山の港を出ると、館山湾を越えて、東京湾を横断して、横浜、神奈川県側に向かって走っていた。

「え、あれ、なあに?」

目の視力が2.0のゆみが、ヨットの向かっている真横に見える海面を指さした。

「なんかいる?」

ゆみは、その海面をじっと見つめていた。

「あ、鯨じゃないか」

お父さんも、ゆみが見ている方向を見て叫んだ。

「鯨?鯨ってあんなにちいちゃいの?」

ゆみは、目の前の海面に浮かんでいる動物の姿を見て言った。

「なんか大きさはイルカみたい」

ゆみは、水族館で見たイルカの姿を思い出しながら言った。

「鯨だよ。鯨といっても、よく絵本とかハワイ沖にいるような大きな鯨ではないけど。パイロットホエールといって大きさがイルカぐらいの鯨だ」

「こんなところに鯨がいるんだ」

ゆみは、あの海面のところにいる鯨がこちらに近寄ってきてくれないかなと思っていた。

「ほら、ゆみ。見てごらん」

ゆみの見ていた遠くの海面でなく、すぐ近くの海面を見ていた祥恵が言った。

「あ、イルカさん!」

ゆみは、祥恵に言われた海面を見て、叫んだ。たくさんのイルカが群れになってヨットのすぐ近くを泳いでいたのだ。

「あ、イルカさん。こっちに来る!」

ゆみは、こちらに向かってくるイルカの姿を見て興奮して叫んでいた。

何頭ものイルカが、ゆみたちの乗っているヨットの周りを何往復もぐるぐると回っていた。中には、ゆみの前で、ぴょーんと海の上のジャンプして姿を出してくれる子までいた。

「あ、可愛い!」

ゆみは、ヨットの周りを囲んで一緒に泳いでくれるイルカに嬉しそうだった。

「ゆみ。見てごらん」

お母さんに言われて、さっき鯨さんがいた海面を見ると、そっちにいた鯨さんたちまで、ゆみの乗っているヨットのところにやって来て、イルカと一緒にヨットを囲むようにして泳ぎ始めた。

「可愛い!」

ゆみは、真横の海面でジャンプしているイルカと鯨たちと笑顔で遊んでいた。

「どうして、こっちに来たのかしら?ゆみが動物が好きなことわかっているのかしら?」

お母さんが、お父さんに言った。

「さあ、どうかな。もしかしたら、そうかもしれないな」

お父さんは、お母さんに答えた。

「いや、昔からイルカはヨットと一緒に泳ぐの好きみたいなんだけどな」

お父さんは答えた。

「ちょうどヨットのスピードがボートと違って、自分たちの泳ぐスピードとちょうど良いんだろうな」

それから、しばらくイルカたちと併走していたが、そのうちイルカたちはどこかに行ってしまった。イルカがいなくなってしまったちょうどその頃、お父さんのヨットは、無事東京湾を横断し終わって、三崎口の漁港のところにまで到着していた。

「なんかすごい賑やか」

ゆみは、ヨットが泊まった漁港を見てつぶやいた。

「千葉よりも、こっちの方がいくらか都会だからね」

祥恵は言った。

「ゆみ。ちょっとお買い物に行ってきましょうか」

ゆみは、お母さんに誘われて、ヨットを泊めた漁港の前にある「うらり」という市場の中に行った。市場なので、活気があっていろいろな魚が売られていた。

「三浦大根あるわよ。買っていきましょうか」

お母さんは、大根を手に取ると買い物かごの中に入れた。大根以外にも、いろいろな野菜や魚を入れてレジでお買い物をしていた。

「今日の夕ごはんにするの?」

「うん。今日はね、お泊まりできる民宿が無いんですって。だから、ヨットにお泊まりするしかないのよ」

「ええ、あのヨットでお泊まりするの?」

「そう。だから、お母さんがお料理しようと思って」

お母さんは、買った物を持って、ヨットに戻ってきた。今日は、このヨットにお泊まりするのかと思ったら、不安になるゆみだった。

浦賀へにつづく

読進社書店 新刊コーナー

Copyright © 2016-2024 今井ゆみ X IMAIYUMI All Rights Reserved.

Produced and Designed by 今井ゆみ | 利用規約 | プライバシーポリシー.