今井ゆみ X IMAIYUMI

多摩美術大学 絵画科日本画専攻 卒業。美大卒業後、広告イベント会社、看板、印刷会社などで勤務しながらMacによるデザイン技術を習得。現在、日本画出身の異色デザイナーとして、日本画家、グラフィック&WEBデザイナーなど多方面でアーティスト活動中。

伊東マリンタウン

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伊東マリンタウンは、まだ設備が新しくリニューアルされたばかりの、静岡では割と新しめのマリーナ、ヨットハーバーだった。敷地内には、遊園地やちょっとした動物園、ショッピングスクエアなども併設されていて、ヨットやボートを泊めている人たちだけでなく観光で訪れた人たちも楽しめるような施設になっていた。

「あ、観覧車がある!」

ゆみは、海上のヨットの上から見える伊東マリンタウンの全景を見て嬉しそうに叫んでいた。ちょうど、ゆみたちの乗るお父さんのヨットは、熱海港を出航して、伊東の港の前辺りまでやって来たところだった。

「あら、観覧車もあるし、遊園地もあるし、なんか遊ぶところいっぱいありそうね」

お母さんも、伊東マリンタウンの全景を見て言った。

「ゆみ、着いたら遊園地に行ってみようか?」

「うん!お母さん、一緒に観覧車に乗りたい!」

ゆみは、お母さんと嬉しそうに話している。お父さんは、これが狙いで、本日の目的地を伊東にしたようだった。普段からヨットに乗ったりしている祥恵と違って、たまに夏休みに乗りにくるぐらいのゆみにとっては、海でヨットを走らせることよりも、行った先の観光地で楽しめるものがあったほうが嬉しいだろうと思っていたようだった。

「小動物園もあるみたいぞ」

お父さんは、伊東マリンタウンの全景を見て、目を輝かせているゆみに向かって、伊東マリンタウンの施設について説明した。

「動物園も行ってみたい」

ゆみは、お母さんに言った。ゆみが嬉しそうにしているのを見て、狙い通りとほくそ笑んでいるお父さんだった。

「着岸するよ」

ヨットを操船していた祥恵が、お父さんに言った。

「ああ・・」

「泊める場所ってどこでも良いのかな?」

祥恵は、ヨットの舵を持って操船しながら、お父さんに聞いていた。お父さんは、マリーナの岸壁奥のところに立って、港に入港してきたこちらのヨットを見つめていたマリーナスタッフに声をかけた。

「すみません!一泊したいのですが、こちらで宜しいですか!?」

「一泊ですか!?では、そっちのポンツーンに着けてください」

お父さんの質問を受けて、マリーナスタッフが泊められるポンツーンへと、お父さんのヨットを誘導してくれていた。

「こちらへどうぞ!」

祥恵は、ヨットの舵を引き、マリーナスタッフの手招きするポンツーンの方向へと上手にヨットを進めていく。ポンツーンの手前までヨットを寄せると、ロープをマリーナスタッフへと投げ、スタッフの手によって、ヨットはポンツーンに横付けされた。

「着岸完了」

「祥恵、ずいぶん1人でも上手にヨットを着岸させられるようになったじゃないか」

お父さんは、祥恵が1人で操船し、ヨットを着岸させたのを見て、褒めていた。

「もうだいぶ慣れたよ。ヨットの操船のやり方」

「そうみたいだな」

着岸が終わったヨットのデッキ上に散らかっていたロープ類の片づけをしながら、お父さんは祥恵に言った。

「お昼ごはんは、これですよ」

お母さんは、キャビンの中から熱海港の朝、うなぎ屋さんに行ってしまい、食べられなかった朝ごはんを出してきて言った。

「ああ、それで構わないよ」

お父さんが、お母さんに返事し、本当は今朝の朝ごはん用に作った食事を、お昼ごはんとして皆で食事した。

「ゆみ、遊園地行こうか?」

「うん!」

お昼ごはんを食べ終わったあと、お母さんは、ゆみのことを目の前に見えている遊園地へと誘った。

「祥恵も行く?」

「え、うん。いいよ」

祥恵も、ゆみやお母さんと一緒に遊園地へ出かけることとなった。お昼ごはんのときにビールを飲んで、少しお酒が入っているお父さんは、ヨットでお留守番、キャビンの中でお昼寝していることとなった。

「遊園地のどこに行く?」

「ゆみが、観覧車に乗りたいですって」

お母さんは、祥恵に答える。

「観覧車は、たぶん有料だよ。お金かかるよ」

「いいわよ。別に、お母さんがお金出してあげるから」

遊園地の中で一番目立っている観覧車乗り場に行くと、そこの売り場で観覧車のチケットを3人分買って、観覧車に乗りこむ。観覧車は、ゆっくりと空高くまで上がっていく。

「高い!海が遠くまで見える!」

ゆみは、お母さんの横の座席に座りながら、観覧車の上から見える目の前の伊豆の海の景色に感動していた。

「この前に広がる海って、さっき私たちがヨットで走ってきた海じゃん。ずっとヨットで走ってきた海が、観覧車の上から見えているだけなんだけど」

ゆみの感動を打ち消すようなことを祥恵がつぶやいた。

「ほら、お姉ちゃん。せっかくゆみが観覧車の上からの景色に喜んでいるのに、そんなこと言わないの」

お母さんが、祥恵に注意した。

「あ、停まった!」

ゆみは、今までぐるぐる回って上がっていた観覧車が停止したことに気づいた。

「ちょうど観覧車が一番上まで上がり終わったのね」

お母さんは、ゆみに説明した。

「ここが、一番上だから、あっちこっち周りの景色を楽しみなさいって停まってくれているのでしょう」

祥恵に言われて、ゆみは座っていた席から立ち上がると、海側、陸側360度ぐるりと回って見える景色を楽しんでいた。

「あ、ラクダさんがいる!」

ゆみは、遊園地の麓のあたりにラクダのような動物がいるのを発見した。

「あれ、ラクダかな?ラマじゃないかな」

祥恵が、ゆみの見つけたラクダを見直してから訂正していた。

「あ、ラマか」

ゆみも、すぐに自分がラマをラクダと見間違えていたことに気づいて訂正した。

「あ、動き出した!」

ラクダじゃないラマの姿を見下ろしていると、停まっていた観覧車がまた動き出した。

「観覧車、これから下に降りるんでしょうね」

「もう降りちゃうんだ」

少し残念そうに下り始めた観覧車のことをゆみはつぶやいた。

「さあ、観覧車が下まで降りたら、今度はラマさんのところに行きましょうか」

「うん!」

お母さんに言われ、ゆみは大きく頷いた。

遊園地につづく

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