今井ゆみ X IMAIYUMI

多摩美術大学 絵画科日本画専攻 卒業。美大卒業後、広告イベント会社、看板、印刷会社などで勤務しながらMacによるデザイン技術を習得。現在、日本画出身の異色デザイナーとして、日本画家、グラフィック&WEBデザイナーなど多方面でアーティスト活動中。

遊園地

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「どうだった?遊園地は」

お父さんは、ヨットに戻ってきた祥恵に聞いた。

「楽しかったよ。やっぱり、ゆみは一番動物園が気に入ったみたいだったよ」

「それは良かった」

お父さんは、祥恵に答えた。祥恵は、いつも自分が週末にヨットに乗りに行くとき、たまに連れていったりしているが、ゆみの方は、本人の体調のこともあるし、いつもお母さんと家にお留守番させているので、たまにヨットに連れてきたときぐらい、本人が一番楽しめるようにしてあげるのに、お父さんとしても必死みたいだった。

「ゆみ、おもしろかった?」

「うん!あの観覧車に乗ってきたの。そしたら、裸んぼでこのヨットの上に寝転がって昼寝しているお父さんの姿がまる見えだったよ」

ゆみは、お父さんに答えた。

「ああ、そうか。途中までデッキで昼寝していたからな。途中から暑くなってキャビンの中に入ったけど・・」

お父さんは、照れていた。

「そうそう。確かに観覧車の上から上半身裸のお父さんがデッキで寝ている姿、めちゃよく見えていたよ」

祥恵も、お父さんに言った。お父さんは、頭をかいていた。

「ラマとかも可愛かったよ」

「そうか、良かったな」

お父さんは、ゆみの満足そうな表情に頷いていた。

「あなた、今夜は何か計画、予定はありました?」

お母さんが、キャビンの中に入ってきて、お父さんに聞いた。

「いや、別に。どうしてだ?」

「いえ、そこのマーケットで、今晩の夕食にでもしようかと焼き肉を買ってきたので」

お母さんは、買ってきた焼き肉の入った袋を、お父さんに見せながら答えた。

「ああ、今夜は焼き肉か。良いんじゃないか」

お父さんは、お母さんに頷いた。

「ゆみ、そっちのお肉を持ってきて」

祥恵は、バーベキューセットの上で肉や野菜を焼きながら、ゆみに指示した。今夜の夕食は、珍しく祥恵が料理の担当をしていた。

「お母さん、タレある?」

「はいはい」

お母さんが、焼き肉のタレのボトルを祥恵に手渡す。

「今夜は、祥恵が鍋奉行か」

お父さんは、ビールを飲みながら、祥恵の焼いた肉をつまみながら話していた。

「鍋じゃないよ。焼き肉だから」

祥恵は、笑顔でお父さんに答えた。

「祥恵も、けっこう上手に野菜とか切ったりするのね」

お母さんは、祥恵が切った野菜を見ながら言った。

「いつも、ゆみはお家でも料理の手伝いしてくれるけど、祥恵はぜんぜん手伝ってくれないから、あまり得意じゃないのかと思っていたわ」

「一応、家庭科の授業はけっこう成績が良かったでしょう」

祥恵は、お母さんに言った。

「ほかの科目の成績がパッとしないから、私の成績は、ゆみよりも全体的に成績悪いと思っているのかもしれないけど。家庭科と体育だけは、けっこう良いんだから」

祥恵は、苦笑していた。

「ほかの科目はダメなのか?」

「え、ダメってわけじゃないけど・・」

「医大の受験は、家庭科でなく数学とか理科、英語とかなんだろう。そっちの科目の成績はどうなんだ?」

お父さんに突っ込まれて、祥恵は何も言い返せなくなっていた。

「まあ、そっちも高等部に進学したら、本格的にやるよ」

「しっかりやってくれよ」

お父さんは、祥恵にハッパをかけていた。

「でも家庭科とか体育の授業だって、お医者さんになるのには大事でしょう?」

祥恵は、お父さんに反論した。

「そうか?」

「だって、メスで手術とかするときだって、家庭科の野菜切ったり、包丁の使い方が上手な方がいいでしょう?それに、医者は体力勝負だから、体育とか運動もできなければ・・」

祥恵は、自慢げに言ったが、

「それは、皆ぜんぶ医大に入った後に、大学で習ったりするときに必要な知識とか技術じゃないか。まずは医大に入るための受験では、目下のところ家庭科も、体育もあまり必要ではないな」

と、お父さんに言い負かされてしまっていた。

「はい、頑張ります!」

祥恵は、お父さんに焼き肉をつかんでいたトングを片手に敬礼してみせた。

「それで、ゆみはどうするのよ?」

祥恵は、自分の身に降りかかった火の粉を払いのけるように、話題を妹のゆみの方に振った。

「ゆみは、高校を卒業したらどうするつもりなのよ?」

祥恵は、お姉ちゃんの焼いてくれた焼き肉を口の中に頬張っているゆみに聞いた。

「ゆみは、まだあなたよりもずっと年下なのだから、将来のことはまだ早いわよ。少しずつゆっくり考えていくわよね」

お母さんが、口の中に肉が入っているゆみの代わりに答えた。ゆみは、お母さんに小さく頷いていた。

「さあ、そろそろ9時だから、ゆみちゃんは早く寝ましょうね」

お母さんは、就寝のため、ゆみを連れてキャビンの中に入ってしまった。

「また、お母さんに言いくるめられた・・」

祥恵は、キャビンの中に入る2人の後ろ姿を見ながら、つぶやいた。

「え、何が?」

「いつもなの。私が、ゆみは将来どうするの?って聞くと、お母さんが必ず間に入ってきて、ゆみはまだ小さいんだからって言うのよ」

祥恵は、お父さんに説明した。

「へえ、そうなのか。お母さんは、お母さんなりに何かゆみの将来について考えているのではないか・・」

「そうかな?」

祥恵は、お父さんに言った。

「ゆみはまだ小さいとか言うけど、年齢は下かもしれないけど、ゆみだって私と同じ同級生で、9年生、来年は高等部だからね。同じ時期に大学受験とか進路はやってくるんだよ」

祥恵はつぶやいた。

「まあ、おまえと違って、ゆみは次女だから。良いんじゃないか、お母さんに任せとけば」

お父さんは、呑気な感じで祥恵に答えていた。

江ノ島につづく

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