今井ゆみ X IMAIYUMI

多摩美術大学 絵画科日本画専攻 卒業。美大卒業後、広告イベント会社、看板、印刷会社などで勤務しながらMacによるデザイン技術を習得。現在、日本画出身の異色デザイナーとして、日本画家、グラフィック&WEBデザイナーなど多方面でアーティスト活動中。

花火大会

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「うわ、きれい!」

お母さんとゆみは、お父さんのヨットのデッキの上で夜空を眺めていた。今夜は、熱海に来てくれた観光客のために、熱海市が港の海上で花火大会をやってくれていた。

「なんか、あたしたちだけ特等席みたい」

ゆみは、夜空の花火を見ながらお母さんに言った。花火は、港の沖合いに設置された台船の上から夜空に向かって打ち上げられていた。その花火を、熱海にやって来ている観光客の人たちは、目の前の砂浜、ビーチやそれぞれが泊まっている海に面したホテルの窓から眺めていた。そんな中、ヨットやボートで熱海にやって来た人たちは、港に停泊した自分たちのヨットやボートの船上から花火を眺めることができていた。ほかの誰よりも花火の打ち上げ場所に近い海上から花火を眺められるのだった。

「本当ね。ヨットだと一番近くから花火を見れるのね」

お母さんも、ゆみに言った。

「ヨットでの花火大会は、特等席なんだぞ。横浜港でも、花火大会をすることがあるのだけれど、そんなときは、ヨットで出かけると海上から一番よく花火を眺められるんだ」

お父さんが自慢していた。

「ゆみも、今年は横浜でも花火大会があるときは、一緒に出かけるか?」

「うん」

ゆみは、お父さんに答えた。

「きれいだった」

「本当ね」

しばらく皆は、海上の夜空に打ち上がる花火を見ていると、9時前ぐらいには全ての花火の打ち上げが終わって、花火大会はお開きとなった。

「ちょうど9時前に終わってくれて良かったわね。それじゃ、おやすみしましょうか」

「うん」

お母さんとゆみは、キャビンの中に入ると、中で就寝についた。狭いヨットの中での簡易ベッドでの眠りにも、ゆみも大分慣れてきた。

「明日はどうするの?」

祥恵とお父さんは、まだヨットのデッキの上で静かに夜空を眺めていた。お父さんは、グラスにお酒を入れて、一杯飲んでいた。

「明日は、伊東のほうに行ってみようかと思うんだ」

「伊東・・、伊東って、うちのヨットで行くの初めてかもね」

「ああ」

お父さんは、グラスのお酒を飲みながら答えた。

「伊東のマリーナは、最近伊豆マリンタウンとかいって、遊園地とかいろいろ遊ぶ場所ができたみたいだからな」

「ああ、ゆみは喜ぶかもね」

祥恵は、ジュースを飲みながら言った。

「さあ、俺たちもそろそろ寝ようか」

お父さんは、グラスの中のお酒を一気に飲み干すと、祥恵に言った。

「おやすみなさい」

 

次の日の朝、ゆみとお母さんはキャビンの中のキッチンで朝ごはんを作っていた。ヨットのキッチンでの食事作りもだいぶ慣れてきていた。

「もうヨットでの生活も不自由じゃないだろう」

お父さんは、手際よく料理をしているゆみに向かって言った。

「そんなことないよ。トイレも無いし、お風呂だって無いし」

ゆみは、お父さんに答えた。

「お風呂は、立ち寄った港の温泉とかに日帰りで入ればよいだろう」

「ええ、毎日、温泉はちょっと・・」

ゆみは苦笑した。

「ねえ、表のところにうなぎ屋さんが出ているよ」

朝の散歩からヨットに戻ってきた祥恵が、お父さんに言った。

「うなぎ屋さん?」

「うん。熱海の老舗のうなぎ屋さんだって。美味しそうだったよ」

「へえ、朝ごはんは、それを食べに行くか?」

お父さんは、祥恵に答えた。

「ええ、もう作ってしまったよ」

ゆみとお母さんは、お父さんに言った。

「それ、お昼ごはんにすればいいだろう」

「朝から、うなぎ食べるんですか?」

「夏休みなんだし、夏休みぐらいいいだろう?」

お父さんは、お母さんに聞いた。

「そうね・・」

お母さんは、せっかく作った朝ごはんを、お昼に食べられるようにタッパーにしまいながら、つぶやいた。

「それじゃ、食べに行くか」

お父さんのかけ声で、結局ゆみたちはヨットを降りて、祥恵が見つけたといううなぎ屋さんに向かって歩いていた。

「あたし、朝からうなぎいっぱい食べられないかも」

「ゆみは、お母さんと半分こしましょう」

お母さんは、ゆみに言った。

「美味しいな!」

「うん。めちゃ美味しい!」

朝から祥恵とお父さんは、食欲旺盛で運ばれてきたうなぎの丼をがっつりと食べていた。ゆみは、そこまでの食欲はなく、うなぎのお吸い物と小さなうな丼をお母さんと半分こして食べていた。

「祥恵、あなたもよく朝からそんなに食べられるわね」

「若いから」

祥恵は、うなぎを口いっぱい頬張りながらお母さんに答えた。

「あたしも若い?」

「ゆみちゃんの方が妹なんだから、祥恵よりも若いわよ」

お母さんに言われて、

「じゃ、あたしも、もっと食べなきゃだめかな」

ゆみは答えた。

「ゆみは、やめておきなさい。食べ過ぎてお腹とかおかしくしちゃうといけないからね。お医者さん行かないといけなくなちゃうわ」

お母さんは、祥恵に対抗して頑張って食べようとしていたゆみを、慌てて止めた。

「うなぎは、身体を丈夫にしてくれますよ」

うなぎ屋の店員のおばさんが、お母さんに言った。

「ああ、この子は、生まれつきあんまり身体が弱い子なので・・」

「ああ、それだったら、無理しない方がいいわね」

店員のおばあさんは、ゆみに言った。そして、食べ終わってお店を出るときに、店員のおばさんは、ゆみにうなぎの飴が入った袋をくれた。

「ほら、お姉ちゃんに比べて、あなたはそんなにたくさんうなぎを食べられていなかったでしょう」

「ありがとう」

ゆみは、うなぎ屋の店員のおばさんに御礼を言った。それから、ヨットに戻ると、お父さんと祥恵は、ヨットを伊東へ目指し、熱海港から出航させた。

伊東マリンタウンにつづく

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