今井ゆみ X IMAIYUMI

多摩美術大学 絵画科日本画専攻 卒業。美大卒業後、広告イベント会社、看板、印刷会社などで勤務しながらMacによるデザイン技術を習得。現在、日本画出身の異色デザイナーとして、日本画家、グラフィック&WEBデザイナーなど多方面でアーティスト活動中。

58 進級会議

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「ああ、結局、7年の成績は、さんざんだったな」

祥恵は、いつもの百合子たちと話していた。

3学期の期末試験が終わって、放課後に教室の後ろのところ、そこに置かれているシングルソファに集まって、シングルソファに5、6人で腰掛けながら、試験が終わった緊張感をほぐしていた。

「それにしても、祥恵の妹のゆみは、すごいよね。また満点だものね」

「ね、ゆみちゃんって、また飛び級しちゃうんじゃないの」

「あり得るよね」

「そしたら、ゆみがお姉ちゃんで、私が妹になるのか」

「そんなことはないから」

夕子が、祥恵にツッコんた。7年の1学期の中間試験から2学期、3学期と全部で5回試験があって、その試験すべてが満点だったのだ。当のゆみは、小等部の頃から試験があると、いつも満点だったので、特に珍しくもなく麻子や真弓と一緒に、お昼のお弁当を食べに音楽室へ行ってしまっていた。

「本当だよね。満点取ってるのが、自分の妹だって信じられないよ」

祥恵は、夕子に返事した。

「祥恵は、食事終わったら部活行くでしょう?」

「もちろん。ずっと試験中、勉強ばかりだったから身体がなまっちゃって動かさなきゃ」

祥恵は、美和に言われて、手を上下に振りながら答えた。

「私は帰るわ」

夕子が言った。

「え、夕子は帰るの?なんで、部活やっていかないの?」

「この成績じゃ、昨日父親にめちゃ怒られてしまって、今日ぐらい学校からまっすぐに帰って勉強しているところ、父親に見せないと、後々まずいから」

「そうか。夕子も大変だね」

「私も、2学期の期末のとき、お父さんにさんざん言われたよ。成績上がらないなら、部活なんかやめちまえとか」

祥恵が、夕子に言った。

「祥恵の親って優しそうなのに、そんなに怒ったりするんだ」

「怒るよ。っていうか、百合子は、ゆみと一緒にいるお母さんしか見てないから、そう思うんだよ」

祥恵は、百合子に話した。

「うちのお母さん、ゆみには、チョー甘いから。ゆみに接する態度と私に接する態度めちゃ違うんだから。それで持って、お父さんはお父さんで、けっこう私にはお前は長女なんだからって言ってくるし」

「へえ。でも、なんとなく祥恵のお母さんが、ゆみちゃんだけに甘いっていうのはわかる気がする」

百合子は、祥恵から話を聞いて、今井家の様子を想像しながら答えた。

「でしょ!」

「さあ、部活に行って、思い切り身体を動かしてこよう!」

美和が立ち上がると、祥恵も一緒に立ち上がって、2人は部活がある体育館に行ってしまった。

「百合子も帰るでしょう?」

「うん。一緒に帰ろうか」

夕子と百合子は、教室を出て仲良く一緒に家路についた。

「で、これは文句無しですな」

佐伯先生は、ゆみの試験の結果をほかの先生たちにも見せながら発言していた。自分の担任しているクラスのゆみが成績が良いので自慢したいという表情が顔に溢れていた。

「確かに、これは間違いないですな」

「ええ、彼女の進級は、飛び級で9年ですね」

職員室の会議室で、7年生の先生たちが集まって会議を開いていた。生徒たちの1年間の試験の結果を照合しながらの進級会議だった。

「それでは、今井ゆみさんは、今度の進級では8年でなく9年への進級で問題ありませんね?」

会議の司会であり進行を行っている教頭先生が、ほかの先生たちに確認した。先生たちは、教頭先生の言葉に賛成とばかりに拍手で応えていた。

「はい」

手を上げたのは大友先生だった。ほかの先生たちは、最初、はいと発言した大友先生の言葉が、ゆみの飛び級に賛成という意味の「はい」だと思っていた。

「大友先生、どうぞ」

「私は、彼女の飛び級には反対です。彼女は、まだまだ中等部の最上級学年、9年生になれるだけの成長は、全くしていないと思います」

大友先生は、教頭に反論した。

「ほお、それはなぜ?」

教頭先生は、皆が飛び級に賛成する中、たった1人だけ反対する大友先生の態度をおもしろがりながら質問した。

「確かに、この成績だけを見れば、7年の授業内容は彼女には簡単すぎるように思えます。が、1年間、私は彼女と接してきて、彼女はぜんぜん中等部の7年として成長できているようには思えません」

大友先生は、会議で堂々と発言した。

「中等部、中学生の成長とは勉強の善し悪しだけではないでしょう。彼女は勉強はできるかもしれないが、心はちっとも成長できていないように思えます。彼女は、仲の良いクラスの子とよく音楽室に来てお昼を食べているのだが、いつもお友だちとも、友人というよりも姉と妹のような感じで、かなり甘えん坊なところが見受けられます」

「それは・・実年齢がかなり下なので」

英語の塚本先生が、ゆみのことを擁護するような発言をした。

「なるほど。確かに精神的に成長していないという部分は多分に見受けられる・・」

「飛び級に実年齢がいくつとかは関係ないですものな」

ほかの先生たちも、大友先生の発言には一理あると賛同し始めていた。

「でも、落第とか留年というのは、彼女にショックを与えてしまうのでは」

塚本先生は、ゆみを擁護して、大友先生に意見した。

「あ、もちろん留年とか落第させるような点数でもないし、そんな留年させるほど彼女が不良な子ではないとは、私も思っていますよ」

大友先生は、塚本先生に言った。

「では、このまま引き続き、彼女は飛び級無しで8年生に進級ということで宜しいでしょうか」

佐伯先生が、ほかの先生方に質問した。ほかの先生たちは、佐伯先生に頷いた。

「はい」

大友先生が手を上げた。

「彼女が、このまま通常通りに8年生へ進級することには私も賛成です。賛成ですが、1組でなく4組へ進級させてほしいです。彼女のクラス替えを希望します」

大友先生が提案した。大友先生の提案に、ほかの先生たちは驚いていた。

「それは、彼女が成績優秀だから、大友先生の担任である4組に欲しいということでしょうか?」

2組の担任の社会の内藤先生が、大友先生に質問した。

「私は別に構いませんよ。彼女を引き取ってもらえるのなら、引き取って頂いても」

自分のクラスの成績とか体裁に全くこだわりのない佐伯先生がラーメン頭のもしゃもしゃした髪をかき上げながら、大友先生に答えた。

「私は別に彼女が成績優秀だから、自分のクラスに欲しいと言っているのではありません」

大友先生は、皆に発言した。

「彼女をこのまま姉と同じ1組のクラスにしておいては、彼女はいつまで経っても姉に頼ってしまっていて、精神的に自立、成長しないだろうと言っているのです。だから、1組から一番遠い教室の4組が妥当ではないかというだけです。なんなら、依田先生の3組でも構いませんが」

大友先生は、答えた。

「私の担当の世界史は8年からスタートするので、私は、まだ彼女を受け持ったことはありません。なので、ここは1年間音楽の時間を通して、彼女と接してこられた大友先生にお任せする方が妥当ではないでしょうか」

「そうですね」

職員会議では、満場一致で、ゆみのことを通常通り8年に進級、但しクラスを1組から4組に変更することで賛成となった。

「美味しいね!」

「でしょう?ぜったい、この味は、ゆみちゃんが好きだと思った」

音楽室で馬宮先生は、自分の作ってきたスイーツを、ゆみや麻子たちに食べさせながら話していた。

「うん。このベリーが入っているところが美味しい」

ゆみは、先生の作ってきたスイーツを口に頬張りながら話していた。

「そういえば、大友先生は?」

真弓が、音楽職員室に姿が見えない大友先生のことを、間宮先生に聞いた。

「中等部の進級の職員会議だって」

馬宮先生が、悪戯っぽく微笑みながら、真弓に答えた。

「ああ、そうか。私は、特になんか留年になってしまうような覚えは無いんだけど、進級会議とか聞くだけで、心臓がドキドキしてしまうね」

「うん、ドキドキする」

麻子も、真弓に頷いた。

「せっかくお姉ちゃんと一緒の学年になれたのに、留年しちゃったらどうしよう?」

「ゆみは、留年なんかするわけないでしょう」

ゆみは、麻子に自分の頭を小突かれた。ゆみは、まさか自分が大友先生の提案で進級会議の話題の中心になっているとはぜんぜん知らずにいた。

「留年もいやだけど。飛び級もしたくないな」

ゆみは、皆に答えた。

「飛び級の心配は、ゆみちゃん以外は誰にも関係ないね」

「ゆみちゃんが飛び級したら、4月から高等部になるのかな?」

「それは、ぜったいいや!」

ゆみは、真弓に反対した。

「せっかく、お姉ちゃんと同じ学年、同じクラスになれたのに、もうお姉ちゃんと別々のクラスになるなんて、ぜったいに考えられないよ」

ゆみは言った。

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