今井ゆみ X IMAIYUMI

多摩美術大学 絵画科日本画専攻 卒業。美大卒業後、広告イベント会社、看板、印刷会社などで勤務しながらMacによるデザイン技術を習得。現在、日本画出身の異色デザイナーとして、日本画家、グラフィック&WEBデザイナーなど多方面でアーティスト活動中。

74 夏休みの計画

もっと詳細を確認する

「ねえ、さっきの話って本当なの?」

祥恵は、1組の教室に向かって歩きながら、ゆり子に聞いた。

「さっきの話?」

「ほら、ゆみに話していたじゃない。ブータ先生が来たよとかって」

「ああ、あれね」

ゆり子は、祥恵に答えた。

「ブータ先生が来たよ!とか言っていたけど、ゆり子が連れて来てくれただけでしょう?」

「うん、そうなのかな?」

ゆり子は、祥恵に答えた。

実は、ゆり子もブータ先生を学校に連れてきたつもりはないはずだった。のだが、朝起きて、朝食を済ませ、学校に出かけようと玄関に行ったら、そこにブータ先生が置かれていたのだった。

「あら、ゆり子。そんなところにブータ先生置きっぱなしにして」

後ろから出てきたお母さんも、玄関に置いてあるブータ先生のぬいぐるみに気づいて、ゆり子に言った。

「え、私じゃないよ。私、こんなところに持ってきていないし」

「あなた以外に、ブータ先生触る人なんて、この家に誰もいないでしょう」

「そう、そうだけど」

ゆり子は、お母さんに答えた。昨日、なんかの用事で、ここにブータ先生を持ってきて置き忘れたのかな、全然持ってきた覚えはないんだけどとゆり子は思っていた。

「ねえ、学校行くので私、時間がないの。お母さん、悪いけど私の部屋の棚の上、どこでも良いから置いておいてくれないかな」

ゆり子は、ブータ先生をお母さんに渡しながらお願いした。

「っていうか、ゆり子。それ、学校に持っていきなさいよ」

ゆり子のお母さんは、ブータ先生をゆり子に返しながら言った。

「学校に?このぬいぐるみ持っていけっていうの?」

「ええ。だって、あなた、しょちゅうブータ先生のこと部屋中あっちこっちに置き忘れているじゃない」

「そうかな・・」

「それって、あなたももう中学生で、大人になってきて、ぬいぐるみなんか興味無くなってきているってことよ」

「それは、そうかもしれないけど」

「だからね、そのブタのぬいぐるみにブータ先生って名前を付けたのゆみちゃんなんでしょう?」

「そうね」

「せっかく、この間ゆみちゃんにあげたのに、何もわざわざもう一度取り返して来なくたって良いでしょう。ゆみちゃん、まだあなたより年下で、祥ちゃんの妹なんだし、ゆみちゃんにあげちゃいなさいよ」

「そうだね。っていうか、私、別に取り返したりなんかしていないんだけど」

「ともかく、ゆみちゃんに返してあげなさいよ。で、あれから、ゆみちゃんとは、ケンカ、仲直りしたの?」

お母さんは、なんかブータ先生が戻ってきたことを誤解、勘違いしているようだった。

「うん、返すよ。返すけど、私、別にゆみちゃんとケンカなんかしていないし」

「ほら、学校遅れるわよ。ゆみちゃんも、お姉ちゃんの祥ちゃんも、お母さんの友だちの娘さんで可愛い子たちなんだから仲良くしてちょうだいね、はい、行ってらしゃい」

お母さんは、ゆり子のことを玄関から送り出した。

「はい、行ってきます!」

なんだか、お母さんに誤解されていることを解せないままに、ゆり子はブータ先生のぬいぐるみを持って、学校に出かけたのだった。

そして、ゆみちゃんになんて言ってブータ先生を渡そうか、ずっと学校に行く道の間、考えていたのであった。

「ああ、ゆみちゃん!ゆみちゃん!大変よ、大変!」

これが、ゆり子が学校に来るまでの間ずっと考えた結果の、ブータ先生をゆみに渡す方法だったのだった。

「で、夏休みは祥恵はずっと部活?」

「そうだね」

祥恵は、ゆり子に答えた。

「美和も部活だって言っていたよ」

「そうよ。久美子だって部活よ」

「本当、祥恵たちってバスケが好きだよね」

「別にバスケが好きっていうか、身体を動かすことが好きなのよ。ゆり子もやったら良いのに・・」

「私、だめ。出不精だから身体動かしたりするの苦手」

ゆり子は、祥恵に笑顔で答えた。

「ゆり子は夏休みはどうするの?」

「お姉ちゃんがさ、ロンドンに遊びに来いっていうから、お母さんと行ってくるつもり」

「へえ、ロンドンってイギリスでしょう。リッチだね」

祥恵は、ゆり子から夏休みの計画を聞いて答えた。

「そういえばさ、夕子も夏休みはニューヨークに行くんだって」

「え、夕子。ニューヨークに行くの?」

ゆり子は、祥恵からその話を聞いて、当の小倉夕子に質問した。

「行くけど、母親の付き添いって感じ」

夕子は答えた。

「母親の付き添い?」

「そうなの。なんだかね、うちの母親がニューヨークで知り合ったときの友人が結婚するからって友人に結婚式に招待されちゃって。1人で飛行機に乗って、ニューヨークに行く不安だからって、弟は部活あるからとかって断るからさ」

「それで夕子がお母さんとニューヨークに行くことになったんだ」

「うん」

「向こうで暮らしていた頃のお友だちと会ったりするの?」

「一応、朋子には会うつもりでいる」

「へえ、皆リッチだね。夏休みに海外旅行だなんて」

祥恵が、皆の話を聞いて言った。

「祥恵だって、リッチじゃない!パパの豪華クルーザーでバカンス行くんでしょう」

美和が、祥恵に言った。

「ああ、行くけど。豪華クルーザーじゃないよ、ただのヨットだけどね」

祥恵は、皆に答えたが、ヨットでもヨットとか知らない人からみると、パパの豪華クルーザーヨットで夏のバカンスに行くように聞こえるみたいだった。

「さあ、その前に期末試験だ」

「ああ、今のゆり子の一言で、なんかすごく現実に戻された感が・・」

ゆり子の言葉を聞いて、祥恵や美和、夕子が悲鳴をあげた。

ニューヨーク旅行につづく

読進社書店 新刊コーナー

Copyright © 2016-2024 今井ゆみ X IMAIYUMI All Rights Reserved.

Produced and Designed by 今井ゆみ | 利用規約 | プライバシーポリシー.