今井ゆみ X IMAIYUMI

多摩美術大学 絵画科日本画専攻 卒業。美大卒業後、広告イベント会社、看板、印刷会社などで勤務しながらMacによるデザイン技術を習得。現在、日本画出身の異色デザイナーとして、日本画家、グラフィック&WEBデザイナーなど多方面でアーティスト活動中。

ソーラン節

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「今日から2学期はソーラン節の練習だ」

体育の椎名先生は、体育の時間に4組の生徒たちに説明していた。

「音楽の授業でも聞いたかもしれないけど、今年の合唱祭では、合唱と踊りを一緒にやることになった。ソーラン節というのは、北海道の昔からある民族踊りだ」

椎名先生は、生徒たちに説明していた。運動着に着替えた生徒たちは、先生の前にしゃがんで先生の話を聞いている。1人体育は見学のゆみも、運動着には着替えていないが、皆の脇の椅子に腰掛けながら先生の話を聞いている。

「大きな太鼓を打って、その音に合わせながら、合唱したり、踊るのがソーラン節だ。皆の中から、この太鼓を打つ担当者を決め、あとの人たちは順番に太鼓と音楽に合わせて、体育館に敷いたマットの上で踊ってもらう」

椎名先生は、自分の横に置かれた3つの大きな太鼓を指さしながら言った。

「ちょっとお出で」

椅子に座って見学していたゆみが、椎名先生に呼ばれて前に出る。椎名先生は、ゆみに太鼓のバチを持たせ、太鼓の前に立たせ、自分はもう1個のバチでその太鼓の反対側からポンポンと太鼓を叩いた。

「ほら、お前も叩いてみろ!」

椎名先生に言われ、ゆみも太鼓を叩くが力が弱いので、椎名先生のようにポン!と大きな音は鳴らなかった。

「もっと思い切り!」

椎名先生は、自分が叩くのをやめて、ゆみのところにやって来ると指示した。ゆみは、もう少し強めに叩いたのだが、相変わらず力が弱く、ポワーンって音しか出ない。

「よし、両手で持って力強く叩いてみろ」

椎名先生に言われ、ゆみは片手で振り回していたバチを、今度は両手で握ると、頭から振り下ろすような形で太鼓に打ちつけた。

ボーン!

さっきよりは、いくらかは力強い音が出たが、まだまだ椎名先生の叩いていた音に比べると全く迫力が無かった。

「と、このように太鼓を叩くのは、見た目と違ってかなり力が必要な作業だ。力が無いと迫力のある音は出ない」

椎名先生は、バチをゆみから受け取ると、皆に言った。

「自分は、踊りよりも太鼓をやってみたいというものはいるか!?」

椎名先生は、皆に聞いた。皆は、はじめ遠慮しているのか誰も手を上げない。

「誰でも良いんだぞ。太鼓をやってみたいというものは、力だったら誰にも負けないと自信があるものならば、遠慮なく立候補してくれていいんだぞ」

椎名先生は、皆の顔を伺った。

「踊りの練習というのも、けっこうハードだぞ。ソーラン節は、両手両足、全身に力を込めて踊らなければならないから、マット運動が一通りできるようにならないと踊れない」

椎名先生は、ソーラン節の踊りについて説明した。

「2学期じゅうは、ずっとソーラン節の踊りだけと聞くと、今年の2学期の体育の授業は、マラソンも球技もしなくて良いから楽だ。そんな風に思っている生徒も多いかもしれないけど、マット運動は下手したら、マラソンや球技なんかよりも大変だぞ」

椎名先生は、皆の目を見た。

「太鼓の担当になれば、そんな大変なソーラン節の授業をやらずに太鼓だけ打っているだけで2学期の単位が取れてしまうぞ!太鼓は各クラス3つ、3人だけだ。やりたいものはいるか?」

椎名先生が言うと、生徒たちは皆、椎名先生のその言い方に笑っていた。

「で、立候補者は、このクラスには誰もいないのかな?」

椎名先生が再度聞くと、

「はい・・」

おそるおそる岩本が手を上げた。岩本が手を上げたのを見て、同じバスケ部の柳瀬も手を上げた。

「よし、じゃあ、2人前に出てきて太鼓を叩いてみろ」

岩本は、椎名先生からバチを受け取ると、太鼓を叩いた。

ボーン!

岩本は、背が高く体つきもがっちりしていて大きい。さっき、椎名先生が叩いていた音よりも大きな迫力のある音が体育館じゅうに響いた。

「おおおおおー」

椎名先生も、クラスの皆もその音の迫力に感動していた。

「それじゃ、柳瀬」

椎名先生に言われて、今度は柳瀬がバチを受け取り、太鼓を叩く番だ。柳瀬は、バスケ部だが身体が小さく、体格も華奢なほうだった。太鼓を思い切り叩くのだが・・、いや、叩くとかの前に背が低いので、大きな太鼓の前に立つと、ゆみと同じく自分の腕が太鼓の正面に届かなかった。

「やばっ、高いな」

柳瀬は、太鼓の前で背伸びをしてみるが、それでも届かない。何か台になるものがないか周りをキョロキョロする。ゆみが自分の見学用に座っていた椅子を差し出す。

「ありがとう(^o^)」

柳瀬は、ゆみから椅子を受け取り、太鼓の前に配置すると、椅子の上に立って、太鼓を叩く。岩本や椎名先生ほどではないが、やはり男性だけあってそれなりに力のある音は出た。

「うん。まあ、音は良いのだが、本番でも。その台に乗って叩くってわけにはいかないからな。柳瀬は太鼓はあきらめようか」

生徒たちは、椎名先生の言葉に笑っていた。

「代わりに他に誰かいるか?」

村岡久美子が手を上げた。

「おお、久美子、やってみるか」

村岡久美子は、椎名先生からバチを受け取り、太鼓を叩く。村岡久美子もバスケ部だけあって、スラリと背は高い。体格も女性としてはしっかりしているので、良い音が太鼓から響いた。

「それじゃ、4組は岩本と村岡、あと1人だれかいないか?」

「はい」

まゆみが手を上げた。

そして、4組の太鼓は、岩本、久美子そして、まゆみの3人に決まった。

「ほかのクラスは太鼓の担当は男子2、女子1なんだ。4組は女子2、男子1って太鼓はなかなか面白いかもしれないぞ」

椎名先生は、皆に言った。合唱祭当日、ソーラン節の踊りはクラス対抗で採点されて優勝クラスは表彰されることになっているのだ。

湯川あさこにつづく

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