今井ゆみ X IMAIYUMI

多摩美術大学 絵画科日本画専攻 卒業。美大卒業後、広告イベント会社、看板、印刷会社などで勤務しながらMacによるデザイン技術を習得。現在、日本画出身の異色デザイナーとして、日本画家、グラフィック&WEBデザイナーなど多方面でアーティスト活動中。

撮影鑑賞会

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「お父さん、めちゃめちゃ恥ずかしかったよ」

祥恵は、学校から戻ると、お父さんに言った。

「え、何が?」

「何が、じゃないって。ずっとステージの前で写真を撮っていたでしょう」

「ああ、いけないのか?」

お父さんは、祥恵に言った。

「いけなくはないけど、ずっと撮り続けていたでしょう」

「ああ。お父さんだけじゃなく、他のお父さんたちも、けっこう撮っていた人いただろう。カメラじゃなくビデオを撮り続けている人もいたし」

「うん」

祥恵は、お父さんがステージ前で撮り続けていたことを、台所にいるお母さんに言いに行った。

「あら、そうだったの?」

「え、あたし、ぜんぜんわからなかった」

ゆみは、お母さんに聞かれて、返事をした。

「周り見ている余裕がなかったんだもん。ずっとピアノを弾いてて」

「そうね」

お母さんは、ゆみの頭を撫でてくれた。

「おーい、テレビにセット終わったぞ!見に来るか?」

お父さんがリビングルームから呼んでいる。台所にいた皆は、リビングルームに移動してきて、テレビを見る。テレビには、お父さんのカメラが接続されていて、画面には今日お父さんが撮ってきた写真が大きく映し出されていた。

「なんかピンぼけしていない?」

祥恵は、お父さんの撮ってきた写真を見て言った。

「まあ、中にはピンぼけしてしまっているのもあるけど、ほら、この写真なんか、なかなか綺麗に撮れているだろう」

お父さんは、カシャカシャと写真を変えながら、ゆみがピアノを弾いている写真のところで止めて言った。

「そうなのよ。ゆみちゃん、ピアノの前で弾いている姿、本当に可愛かった。ただ、ジーンズじゃなくて、もう少しかわいいワンピースかなんか着せたかったわ」

お母さんは、ピアノを白のブラウスにデニムのジーンズで弾くゆみの写真を眺めながら、感想を言った。

「ほら、これも可愛いだろう?」

お父さんは、和太鼓の岩本君の後ろからピアノを弾くゆみを撮った写真を見せた。

「ああ、こんな和太鼓とか踊りを踊るのもあったの?」

午前中で帰ってしまったお母さんは、それを見れなかったのが、とても残念そうに言った。

「お母さん、来年も、9年生でもソーラン節は踊るんだってよ」

ゆみは、合唱祭が終わった後、大友先生が言っていた言葉を、お母さんに伝えた。

「そうなの。来年は、お母さんも和風のゆみちゃんも見たいわ」

お母さんは、ゆみに言った。

「来年は、9年生なんだし、中等部最上級生なんだから、少しスカート履く練習しようか?そしたら、来年の合唱祭は可愛いワンピースでピアノを弾けるわよ」

「別にワンピースでは弾きたくない」

ゆみは、きっぱりと言った。それを聞いて、少し残念そうなお母さんだった。

「なんかすごいね。いったい、いくつ、ゆみばっかり枚数を撮ってきたの?」

祥恵は、お父さんが写真を変更しても、変更しても現れる別角度のゆみの写真を見て言った。

「ああ、なんかどの角度のゆみも可愛いなと思ってな」

お父さんは照れていた。

「うわ、親ばか・・」

祥恵は、そんなお父さんのことを苦笑していた。

「それにしても、本当にずいぶん撮ったわね」

お父さんが、次、次と変えても、変えても終わらない写真の数に、お母さんまでもが祥恵と同じことを言っていた。

「ね、なんか今度からカメラで無く、ビデオカメラを持っていったほうが良いんじゃないの」

「本当ね」

祥恵とお母さんは、大量の写真を見せられながら笑っている。

お父さんが写真を変えているうちに、ゆみの写真が終わり、4組でなく2組、3組の合唱の場面が写っているところにやって来た。

「お、これで、ゆみは終わりだな。もう少ししたら、祥恵も出てくるからな」

お父さんは、皆に言った。

「え、私も撮ってきたの?」

「もちろん。撮ってきたよ!」

お父さんは、祥恵に答えた。

「別に、私のことは撮って来なくても良かったのに」

祥恵は、小声でつぶやいた。

「あ、ほら、お姉ちゃんよ」

祥恵の写真が出てくると、お母さんは、ゆみに言った。

「うん」

ゆみ頷いて、祥恵の写真を見ている。メロディも、側に来て、画面の中の祥恵の写真を食い入るように眺めていた。

「メロディ、お姉ちゃんのこと見ているよ」

「本当ね。メロディったら、よっぽど気に入ったのかしら」

お母さんも、食い入るように画面を見ているメロディのことを笑っていた。

「ほら、メロディ。もういいから」

祥恵が、画面にへばりついているメロディのことを恥ずかしそうに離した。

「この後なんだよ。傑作が撮れたんだ」

お父さんが、さらに何枚か写真を変えると、大きく口を開けて歌っている祥恵の顔のドアップの写真が出てきた。

「うわ、大きなお姉ちゃん!」

「まあ、何もそんなに寄って撮らなくても・・」

お母さんとゆみは言った。

「なかなか良く撮れているだろう」

お父さんは、自分の撮ってきたそのアップの写真を満足そうに眺めていた。

「もういいから。次に行こう」

祥恵は、いつまでも次の写真に変えないお父さんに、恥ずかしそうに言った。

「ああ、これで最後だ」

お父さんは、祥恵に返事した。

「だったら、もう鑑賞会は終わり」

祥恵は、テレビのスイッチを消した。

「後で、焼き増しして、何枚か私にも下さいよ」

「いいよ」

お父さんは、お母さんに返事した。

「私のは、焼き増さなくてもいいよ」

「どうして?祥恵の写真も、何枚かお母さんも欲しいのあったんだけど」

お母さんは、祥恵に言った。

期末試験そしてにつづく

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