今井ゆみ X IMAIYUMI

多摩美術大学 絵画科日本画専攻 卒業。美大卒業後、広告イベント会社、看板、印刷会社などで勤務しながらMacによるデザイン技術を習得。現在、日本画出身の異色デザイナーとして、日本画家、グラフィック&WEBデザイナーなど多方面でアーティスト活動中。

44 大友先生

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「ね、ゆみはどうする?」

麻子が、ゆみに声をかけてきた。

1組のクラスの皆は、殆どが、かおりの告別式に参加するために出かけてしまっていて、教室には、ゆみと麻子以外は誰も残っていなかった。

「あたしさ、本当は、かおりちゃんの告別式に出てあげたいんだけど、ほら、今日じゅうに化学のレポートを書かなくちゃならなくてさ」

「あ、8年になれなくなちゃうもんね」

ゆみは、麻子に答えた。

「うん」

麻子は、2学期の化学の中間試験の成績があまりに良くなかったため、化学の先生に追試の代わりにレポートの提出を言われているのだった。その締め切りが今日で、ほぼレポートは完成しているのだったが、実験して化学的に証明しなければならない箇所があって、その実験をしに化学室に行かなければならないのだった。

「あたしも行く。化学おもしろいもの」

「じゃ、一緒に行こう」

ゆみは、麻子と一緒に教室を出ると、職員室2階にある化学室に行くため中等部の校舎を出た。化学室は、図書室と同じ建物の職員室棟2階にあるのだが、図書室と違って、職員室棟の表側の階段側からは上がれない。1回、職員室の裏側に回り、そこにある階段から2階へ上がると化学室に行けた。

「ゆみ、なんかついているよ」

「え、きゃあ」

麻子がふざけて、職員室棟の前に植えられている木の葉っぱにいた芋虫を、ゆみの肩の上に乗せた。肩の上をみたゆみは、思わずきゃあと叫んでしまい、芋虫を肩から落としてしまった。

「あ、大丈夫かな。死んじゃっていないかな?」

地面に落ちた芋虫のことを、ゆみはしゃがんで見つめた。

「大丈夫。ほら、動いているよ」

麻子が、側に落ちていた木の枝で芋虫を突っつくと、芋虫はごろごろと動いた。

「あ、よかった。死んじゃっていなくて」

ゆみも、側に落ちていた木の枝で、芋虫のことを拾い上げると観察していた。

「よく見るとかわいいね。カラフルなお目々が付いている」

「ゆみって、本当に生き物が好きなんだね」

麻子も芋虫の様子を観察しながら言った。

「木の枝に置いてあげよう」

麻子は、ゆみの木の枝に乗った芋虫を自分の木の枝に移すと、そのまま近くの木の葉っぱの上に置いてあげた。

「よ、何しているんだ」

2人は、背後から声を掛けられて、そっちの方を振り向くと、鳥居が立っていた。鳥居と一緒に4組の小汀(おばま)と田中も立っていた。それに音楽の大友先生もいた。

「え、芋虫を木に逃がしてあげていたの」

「かおりの告別式は行かないのか?」

鳥居は、2人に聞いた。

「行かないの。っていうか化学のレポート書かなくちゃならないから」

麻子は、鳥居に答えた。

「あ、そうか。麻子は落第点だったものな」

「うるさいな!」

麻子は、鳥居に言われて、怒った。

「で、ゆみは?告別式に行かないのか?」

「あたしは・・」

ゆみは、鳥居に言われて返事に困っていた。

「ゆみちゃんは、ほら、ずっといつも一緒にいたから、敢えて今日の告別式に行かなくても良いのよ」

麻子が、ゆみの代わりに答えてくれた。

「ええ、なんでだよ。いつも一緒にいた友だちだからこそ、お葬式に行ってあげるんじゃないのかよ?」

「だから、仲良かったからこそ行きづらいっていうのもあるでしょう」

鳥居に麻子が言ってくれたのだが、

「そうかな・・」

鳥居は、麻子の言葉に納得出来ない様子でいた。

「俺ら、これから行くんだよ」

4組の小汀と田中が言った。

「そうだよ。4組の2人が行くのに、同じ1組の生徒が特に用事も無いのに行かないのって、なんかひどくないかな。やっぱり行った方が良いと思うな」

鳥居は、ゆみに言った。

「よし、用事がないのなら、先生もこれから行くのだから一緒に行こう」

大友先生が、ゆみのことを抱き上げると言った。

「え、なんで・・」

ゆみは、大友先生に抱き上げられながら文句を言った。

「いつも一緒に仲が良かったんだろ?」

大友先生は、ゆみのことを地面に下ろしながら聞いた。

「うん。いつも一緒に遊んだりしていたよ」

ゆみは、大友先生に言った。

「だったら行こう!」

「だから、行かないの」

ゆみは、大友先生に言うと、大友先生はゆみのことをもう一度抱き上げて、

「だからこそ行ってあげなきゃだめだろう。どんなにつらくてもお友達の葬式なのだから、参加してあげないとだめだろう」

そう言って、ゆみのことを空中でゆっくりとぐるぐる回してみせた。

「先生、こわいったら」

「じゃ、一緒に行くか?」

大友先生は、ゆみの身体を持ち上げて、もう一回ゆっくりとぐるぐる回してみせた。

「わかった。目が回っちゃうよ、行く、行くから」

「うん。やっぱ、ゆみも行った方が良いよ。ちょうど大友先生も行くんだから。一緒に連れていってもらいな」

麻子も、ゆみに言った。鳥居から言われて、麻子も、ゆみは行った方が良いと思い直したのだった。

そして、ゆみは大友先生と鳥居、4組の小汀、田中とともに学校の正門前にあるバス停からバスに乗って、かおりの告別式が開かれているお寺まで行くことになった。

「ゆみ、行ってらしゃい!」

化学室にいく麻子が、大友先生たちと出かけるためのバスをバス停で待っているゆみに向かって、手を振ってくれた。ゆみも振り向いて、麻子のほうに手を振り返した。

「ゆみとどこかに出かけるのは初めてだな」

大友先生は、ゆみに言った。

「だって、先生は4組の担任だもの」

ゆみは、大友先生に言った。

「え、でも、俺けっこう大友先生とよく出かけていいるよ」

「確かに鳥居とは、小汀や田中たちと一緒に吉祥寺とか行ったりしていたな」

大友先生は、鳥居に答えた。

「ゆみは、そういえば夏の清里は行かなかったのか?」

「行ってない」

「そうか。清里でおまえの姿見ていないと思ったけど欠席だったのか」

「山なんて、あたし登れないもの」

ゆみは答えた。

「そうなのか」

「それで、俺、ゆみに清里のお土産持って帰ってきたんですよ」

「あ、キーホルダー」

ゆみは、夏休み明けに鳥居からもらったお山のキーホルダーを思い出しながら答えた。

「ゆみちゃーん!」

バスがやって来て、ゆみたちがバスに乗り込んでいると、背後から、ゆみのことを呼ぶ声がした。麻子が、バス停に向かってちょうど走ってくるところだった。麻子は、バスに乗って、ゆみたちの側までやって来ると、全力で走ってきて、まだ息をハアハアさせていた。

「どうしたの?化学のレポートはいいの?」

「化学の先生がね、レポートは明日までで良いから、クラスの友達のお葬式に参加してこいって」

麻子は、鳥居に言った。結果、大友先生に、鳥居、麻子、ゆみ、そして4組の小汀に田中の皆で、かおりのお葬式に参加することとなった。

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