今井ゆみ X IMAIYUMI

多摩美術大学 絵画科日本画専攻 卒業。美大卒業後、広告イベント会社、看板、印刷会社などで勤務しながらMacによるデザイン技術を習得。現在、日本画出身の異色デザイナーとして、日本画家、グラフィック&WEBデザイナーなど多方面でアーティスト活動中。

高級レストラン

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「どこ行くの?」

ゆみは、お母さんに聞いた。

「お夕食を食べに行くのよ」

お母さんは、ゆみに説明した。ゆみたち家族4人は、葉山マリーナのポンツーンに停泊したヨットから降りると、出かける準備をしていた。

「あ、ちょっと待ってね」

ワンピースを着ている祥恵は、揺れるヨットの上は歩きづらいので、一歩ずつデッキの上を踏みしめながらヨットから降りてきた。

「あー、歩きにくかった」

祥恵は、ポンツーンに降り立つと、つぶやいた。

「だから、スカートなんか履くからよ」

「うるさい」

ゆみが祥恵に言うと、祥恵は軽くゆみの頭をポンと叩いた。

「あ!」

ゆみは、ポンツーン脇の海上に何かを発見したのか、祥恵の立っている横にしゃがみ込んで、海の中を覗きこんだ。と、その後すぐに祥恵の足元から上へスカートの中を覗きこんだ。

「ちょっと何よ」

祥恵は、ゆみがいきなり自分のスカートの中を覗きこんだのでびっくりして叫んだ。

「お姉ちゃん、赤い色のパンツだね」

「赤?赤じゃないよ」

祥恵にそう言われたので、ゆみはもう一度祥恵のスカートの中を覗いて確認してみる。

「ほら、赤じゃん。薄い赤でしょう!」

「赤じゃないよ。薄い赤って。ピンクでしょう」

「あ、ピンクか」

ゆみは、祥恵に言われて訂正した。

「それがどうしたの?」

「だって、お姉ちゃんのパンツ映っているんだもん」

ゆみは、ポンツーン脇の海を指さして言った。

「えっ!」

祥恵が、ゆみの指さす海を見ると、時刻は夜の7時、暗くなってきていて、ちょうどマリーナの明かりが海面を照らしたところが、確かに祥恵のワンピースの中を映し出していた。

「いやだ、本当だ!」

祥恵は、あわててワンピースの裾を抑えて、海面沿いから離れてポンツーンの中央付近を歩くようにしていた。

「もう安心だね」

祥恵は、ポンツーンから上がると抑えていたワンピースの裾を離し、振り向いてお母さんと一緒にいるゆみに言った。ゆみの方は、お母さんとの話に夢中になっていて、もうすっかり祥恵のパンツのことなんか気にしていなかった。

「ごはんって、お外に行くの?」

ゆみは、先を歩いているお父さんの後ろについて歩いていたら、お父さんが葉山マリーナの外に出て行ってしまったので、質問した。

「お外ですって。ここのマリーナのすぐ近くにあるレストランで食事するみたいよ」

お母さんは、ゆみに言った。けっこう遠いのかなと思って、くっついて歩いていたゆみだったが、しばらくすると、お父さんは立ち止まり、一軒の店の中に入っていってしまった。

「あそこ?」

「そうみたいね」

お母さんも、どこのお店か正確には知らなかった。

「早く入ろう」

祥恵が、お父さんの入っていったお店の扉を開けて、中に入る。お店の中は明かりが少なく、暗くなった店内に品の良い音楽がBGMで流れていた。

「すごい!高級レストラン」

ゆみは、お母さんの耳元でそっと囁いた。

「そうね」

お母さんも少し緊張した表情で、ゆみの手を握ると店員に案内されるまま、席に着いた。

「今日は、今年の夏のクルージングも半分終わって、残り少ないし、少し良いものを食べような」

お父さんは、メニューを覗きながら皆に言った。

「祥恵も、ここのお店は来たことあるの?」

「え、昔に1回ぐらい来たかな・・」

祥恵は、お母さんに聞かれて返事した。

「うん。前に葉山に車で来たときに、祥恵は1回ぐらい連れていったよな」

「そうだね。岡本さんたちと一緒に食べに来たんじゃなかったっけ?」

「そうだったな」

お父さんと祥恵は、話していた。岡本さんというのは、横浜にあるお父さんのヨットを停めているヨットクラブの仲間で、お父さんと同じく34フィートのヨットを、そこのヨットクラブに停めている人だった。

「けっこう高いんじゃないの?」

お母さんは、そっとお父さんの耳元で訪ねる。

「そんなでも、それほどでもないよ。今日は、お父さんが全部出すから心配しないでいいよ」

お父さんは、お母さんに返事した。

「ゆみなんか、お店に入った瞬間からすごい高級レストランとか言っていたわよ」

「はは。そうか、高級レストランは良かったな」

お父さんは、ゆみのことを笑った。

「ゆみ、こんな高級レストランは一生のうち二度と来れないからな。しっかり美味しいものをいっぱい食べておけよ」

ゆみは、お父さんに言われて小さく頷いた。ボーイさんがやって来て注文を取っていた。お父さんが、メニューを見ながら皆の分も注文してくれていた。

「ゆみ。どれをどう注文したら良いか自分ではわからない」

「お母さんもわからないわ」

お母さんも、ゆみに同意した。それから皆は、静かに注文した食事が運ばれてくるのを待っているのだった。

三崎へにつづく

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