今井ゆみ X IMAIYUMI

多摩美術大学 絵画科日本画専攻 卒業。美大卒業後、広告イベント会社、看板、印刷会社などで勤務しながらMacによるデザイン技術を習得。現在、日本画出身の異色デザイナーとして、日本画家、グラフィック&WEBデザイナーなど多方面でアーティスト活動中。

67 栗原淳子

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「彼女は栗原淳子といいます」

7年の終わりの頃に、1組に良明という転校生がやって来た。そして8年生になってからも転校生がまた1人やって来た。

といっても、彼女が転校してきたことを、4組のゆみは大分経ってから知ることになる。

栗原淳子が転校してきたのは、2組だった。2組は、1組のすぐ隣りにある教室なので、1組の祥恵も、彼女が新しく転校してきたことは2組のお友だちから聞いて知っていた。しかし、1組から一番離れた教室の4組に移ってしまったゆみは、2組の転校生のことを知らずにいた。

栗原淳子は、ベリーショートヘアーの小柄な女性だった。祥恵も、けっこう髪型は短いほうだったが、耳にかぶっていて長さ的にもあごのラインぐらいまではあった。栗原淳子は、男の子の髪型と同じぐらい短めの髪型だった。

転校してきたとき、彼女はクリーム色の上下スカートスーツを着ていた。転校初日以降、それからも彼女は短めの髪で、飾りっ気のない白いブラウスに、固めのスカートスーツを着て登校していた。服装と髪型のせいか、彼女はおとなしめの真面目な学級委員長的な生徒と思われていた。

そのせいで、周りの生徒たちは近寄りづらいのか、いつも1人でいることが多かった。そんな彼女だが、勉強はそこそこの成績なのだが、決して真面目タイプという女性ではなく、実際には活発に動き回ることも好きな女性だった。

「なんかニューヨーク楽しかったな」

岡島良明は、昼休みに1人で教室の前の廊下の窓から外を眺めながら、考え事をしていた。転校したばかりの頃は、隣の席の祥恵が、良明からいろいろニューヨークの話を聞きたがって声をかけてきていたが、最近では良明が小声でポツリポツリとしか答えないので、祥恵もあきらめて、あまり話しかけてくれなくなっていた。

そういえば、彼女、祥恵の妹とかいうゆみって子は、8年になって4組にクラス替えになったんだったな、と良明は祥恵のことが頭に浮かんだら、その妹のゆみのことまで頭に浮かんでしまっていた。

「ゆみちゃんって、どうしているのかな?リバーデールにまだいるんだろうか?」

良明が頭の中で思い出していたゆみは、祥恵の妹のゆみのことではない。ニューヨークに住んでいた頃に、近所の、同じアパートメントの7階に住んでいたゆみのことだった。

ニューヨークのゆみの兄、隆は、良明の父親が勤めている日本商社のニューヨーク支店に、ニューヨークの全日制日本人学校の高校を卒業すると同時に勤めるようになっていた。本当は、隆は高校を卒業したら、自分1人だけ日本に帰国して日本の大学に通うはずだった。それが不幸な事故のせいで商社に勤めることになったのだった。

隆の母親は、隆が18歳のときに2番目の子どもを妊娠した。その子どもの出産のため、ニュージャージー州の病院に入院した。そこで無事女の子を出産した。女の子は未熟児だった。生まれつき身体が弱く、出産後しばらくは試験官の中で暮らすこととなった。やっと母親の手に抱かれ、病院を退院できたのは、出産してから1ヶ月ぐらい経ってからだった。

隆は、父親の運転する車に乗って、新しくできた妹と退院する母を病院に迎えに来た。

「かわいいな、まだ目も開いていないや」

隆は、自分の妹を母親から抱かせてもらい嬉しそうに妹のことを見つめていた。そのとき、目の前の道路を歩いていた父親と母親が猛スピードで突っ込んできたトラックに引かれた。2人とも即死だった。

それから、隆は日本の大学に行くのを辞めて、父親が勤務していたニューヨーク支店の当時の父親が仲の良かった支店長に頼んで、そこの商社で働かせてもらうこととなった。それから両親に代わって、隆が商社で働きつつ、残されたまだ幼い妹のことを1人育ててきた。その妹の名前がゆみといった。

小学校4年生のときに父親の転勤でニューヨークに暮らすこととなった良明は、ニューヨークの公立小学校に通うこととなった。その小学校で一緒のクラスになったのが、隆の妹のゆみだった。

彼女とは、学校で一緒に人形劇を見たり、マンハッタンの博物館に行ったり、土日は兄の隆も一緒にボウリング場に行ったり、ヤンキースやメッツの野球の試合を見に行ったこともあった。

「ニューヨークの学校って、やっぱ自由で楽しかったんだな」

良明は、その頃のニューヨークでのことを思い出しながら、学校の窓から外を眺めていた。

「何、やってんの?」

廊下の窓から外を眺めている良明に声をかけたのは、隣のクラスの転校生、栗原淳子だった。彼女は、その日はブラウン色、というより焦げ茶色といった方が近いようなスカートスーツを着ていた。膝丈のタイトスカートなので別に本当に見えたわけではないが、別にパンツなんて見えたって気にしないぐらいな、あっけらかんとした表情で自分の足を上げて、窓の方を向いている良明のお尻を軽く蹴飛ばした。

「なんだよ」

良明が小声で抗議すると、

「うわーい」

とか言って、栗原淳子は廊下を反対側に向かって走って逃げた。なんとなく逃げる姿につられて、良明も栗原淳子の後を追いかけてしまった。

「もー」

廊下を走って逃げて、4組の前近くまで逃げてきたところで栗原淳子は良明に捕まった。良明は、栗原淳子を捕まえると、さっき蹴ったお返しとばかりに、栗原淳子の短い髪の頭を軽く叩いた。

「あ、叩いたな。女の子の頭叩いたらいけないんだぞ」

そう言って、今度は栗原淳子のほうが良明を1組の方に向かって追いかけた。そして1組の前辺りで良明を捕まえると、良明の頭を軽く叩いてみせた。そして、良明がまた栗原淳子を追いかけて、4組の辺りまで廊下を追いかけていく。そこで栗原淳子を捕まえると、また頭を軽く叩いてみせる。2人は、しばらく廊下を行ったり来たり追いかけていた。

「ポン!ポン!」

何度目かの確保で、良明が栗原淳子のことを少し回数を多く叩いた。

「あ、今わざと叩いただろう」

栗原淳子に言われて、良明はニヤニヤと笑っていた。

「おまえ・・」

栗原淳子も、良明の頭を多めに叩いてから、2人はなんとなくニヤニヤ笑いあっていた。

ママのエプロンにつづく

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