今井ゆみ X IMAIYUMI

多摩美術大学 絵画科日本画専攻 卒業。美大卒業後、広告イベント会社、看板、印刷会社などで勤務しながらMacによるデザイン技術を習得。現在、日本画出身の異色デザイナーとして、日本画家、グラフィック&WEBデザイナーなど多方面でアーティスト活動中。

70 緊急会議

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「ここは、こうして擦ればツルツルに平らになるだろう。さすがに、あの大きな機械は、身体の小さいゆみには危険だから、男子に切ってもらおうな」

「はい」

ゆみは、木工室で先生に木工の道具の使い方を教えてもらっていた。

星野の自殺騒ぎの件以来、ゆみは本当に木工で男子に混ざって授業を受けることになってしまったのだった。代わりに、星野が女子に混じって家庭科室にいた。

ゆみが木工室で木工の授業を受けるようになったいきさつは、こんなだった。

「へえ、それで彼女は木工が好きって言ったのか?」

「ええ。言っていたよ」

さやかと由佳が、木工室の前に置かれている昔の卒業生たちが作ったテーブルと椅子に座って、お昼の弁当を食べていたとき、木工室から出てきた先生と、星野の自殺騒ぎの話になったのだった。

「はあ、あいつ可愛いエプロン縫いたいとか言ってたのか。それは、あいつのことは、もっと逞しくなれるように鍛えなきゃいけないな」

星野の自殺騒ぎの話を、さやかたちから聞いても、先生は星野のことはそれだけ言うだけで話は終わってしまっていた。

その代わりに、ゆみの木工が好きって話には、先生も夢中になって食いついていた。

「なんか鳥居たちと彫刻をしたことあるとかって」

「ああ、そうだったな。彼女、とても器用に彫刻刀を使って、木を彫っていたから、それでつい教えてあげたんだよ」

「なんか、それがすごく楽しかったみたいよ」

「そうか」

先生は、笑顔でさやかたちに答えた。

「なんか先生、にやけていない?」

「え?いや、まあな」

先生は、さやかに突っ込まれて照れていた。

「それで、先生は彼女に木工の授業を受けさせようと言うのですか?」

いつもは形式張った職員会議は苦手で、木工室で木工の機械をいじっている木工の野田先生は、その日珍しく職員会議に出席して、しかも会議の場で発言したのだった。

「ええ。彼女自身、木工が好きみたいで、なかなか手先も器用で上手に彫刻刀を使って、木を彫るんですよ」

野田先生は、そう言った。

「しかし、中等部には教育の規定があって、女子は家庭科である一定期間の実習をしなければならないことになっているんですよ」

「それはわかっています」

野田先生は、英語の塚本先生に答えた。

「だから、今度の2学期の間だけ期間限定的に、彼女に木工を教えるというのはどうでしょうか?3学期からは、彼女をまた家庭科の授業に戻します。だから、2学期の間だけ、彼女に木工の授業も経験させてあげるというのでは・・」

野田先生は、会議に出席している先生たちの顔をそれぞれ確認した。

「ほら、彼女は飛び級で他の同年齢の子たちよりは学校での生活が短いのだから、その分、普通なら女子は経験しない木工の授業も経験させてあげることで、飛び級で短くなったキャンバス生活を充実させてあげたいというか・・」

野田先生は、ほかの先生たちの様子を伺うように言った。

「さて、大友先生は、野田先生の提案ですが、どういうご意見で?」

「そうだ。彼女は大友先生の担任なのだから、大友先生のご意見は?」

ほかの先生たちは、担任の大友先生の意見を求めた。

「そうですね。私は、その提案なかなか面白いと思います。普段、会議ではあまり発言しない野田先生のせっかくの提案ですし、受け入れても良いかとも・・」

大友先生は答えた。

たぶん、担任が2組の依田先生や3組の松井先生だったら、そんな前例のないことなど駄目ですと断っていただろう。いや、1組の佐伯先生でも断っていたかもしれない。4組の大友先生は、何よりも生徒それぞれのことを一番に考え、形式にこだわらず自由な発想で物事を考えるので受け入れられたのかもしれなかった。

「それでは、星野の件は・・」

「良いんじゃないですか。彼のことも2学期だけ家庭科の授業を受けさせてみるのでも。それで、彼自身が、やっぱり自分1人だけ女子の中で授業を受けるのが受けづらくなるか、かえって家庭科に目覚めて新しい才能を開花させるかもしれないですし」

大友先生は答えた。

「それでは、2学期だけ限定的に彼女たちを交換して授業を行うということで」

「私は良いと思いますが、桜井先生いかがでしょうか?」

大友先生は、家庭科の桜井先生に聞いた。

「そうですね。私は今まで女子ばかりで、男子の生徒さんに授業をしたことがないので、どうなるか不安もあるのですが、それだけに初めて経験することへの期待感というかワクワクもあります」

桜井先生は答えた。

「それでは、2学期は彼女たちは交換して授業を行うということで宜しいですかな」

教頭先生が、先生たち皆に聞いて、先生たちは拍手した。

「それでは、ゆみ君と星野くんは2学期の家庭科と木工の授業を交換するということで決定しました」

教頭先生は、皆に告げた。

「いや、彼女が7年から進級する際に、大友先生だけが飛び級を反対して8年への進級が決まって以来、今年の8年はいろいろと新しい教育が芽生えていて、なかなか宜しいですな」

教頭先生は、先生たちの新しい教育を嬉しそうにしていた。

そして、ゆみは2学期から星野と交換で木工の授業を受けるようになったのだった。

南アルプスにつづく

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