今井ゆみ X IMAIYUMI

多摩美術大学 絵画科日本画専攻 卒業。美大卒業後、広告イベント会社、看板、印刷会社などで勤務しながらMacによるデザイン技術を習得。現在、日本画出身の異色デザイナーとして、日本画家、グラフィック&WEBデザイナーなど多方面でアーティスト活動中。

62 奇怪な行動

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「ね、ブータ先生。今日は学校でいったい何をしていたの?」

ゆみは、夜寝る前に、自分のベッドの中でブータ先生と寝ながら聞いた。

「・・・」

ブータ先生は、何も言わない。

「どうしたの?もしかして、お話ができなくなってしまったの?」

ゆみは、ブータ先生のことを心配そうにみた。

よく小説とかアニメだとある、不思議な力を持った妖精とか魔法使いが修行の杜仲で魔法が使えなくなってしまったりすることがあるではないか。もしかしたら、ブータ先生も、それが起きておしゃべりが出来なくなったのかと思っていたのだ。

「おいらは、お話ぐらい普通にできるよ」

ブータ先生は、ゆみの顔を見ながら答えた。

「あ、なんだ、おしゃべりできるんだ。心配しちゃったじゃない」

ゆみは、ブータ先生の頭を撫でながら言った。

「あのさ、ゆみは、おいらのこと好きか?」

「好きって?」

「好きか?」

ブータ先生は、真剣な表情で再度ゆみに聞いた。

「うん、好きだよ。なんかたまに、お家に置いてきたはずなのに、突然現れたりして、面倒くさいなって思うときもあるけど。でも、基本的にはブータ先生も、他のぬいぐるみたちも皆同じように大好きだよ」

ゆみは、自分の部屋のタンスの上にたくさん並べられた自分のぬいぐるみを眺めながら答えた。

「そうか、おいらも、ゆみのことは大好きだ」

ブータ先生は、少し寂しそうに言った。

「どうしたの?なんかあったの?」

ゆみは、ブータ先生の頭を撫でながら優しく質問した。

「あのな、おいらたちの住む世界、なんといったら良いか・・こっちの世界でいうと妖精の世界とでも言ったら良いのかな。そこに、おいらのおばあちゃんがいてな。おばあちゃんが病気になってしまったんだよ。医者の話ではもう長くないとか」

ブータ先生は、ゆみに説明を始めた。

「そうなの?おばあちゃん、大丈夫?」

「うん。年が年だからね。それで出来る限り孫のおいらが側についていてあげたくてな。ちょくちょく妖精の世界に帰らなくてはならない」

「それは帰ってあげて。おばあちゃんも喜ぶから」

「ああ、そうしている。それでな、この世界と向こうの妖精の世界をつなぐ入り口なのだが、ゆり子殿の家の近くにあるんだよ」

「それで、ゆり子お姉ちゃんの部屋にいたのね」

「ああ」

ブータ先生は答えた。

「それでな、おいらも出来ればずっと大好きなゆみの側にいたいのだが。そういう事情だから、しばらくゆり子殿の部屋で世話になっても良いかな?」

「ああ。ゆり子お姉ちゃんのところに帰りたいってこと?」

「いや、ずっとではないよ。おばあちゃんが病気の間だけだ。おばあちゃんの看病が終わったら、すぐにゆみのところに戻ってくるから、しばらくゆり子殿のところにいても良いかな?」

「うん、もちろん」

「かたじけない」

ブータ先生は、ゆみにお辞儀をした。

「もう、ゆり子お姉ちゃんのところに行ってしまう?」

「いや、明日からゆり子殿のところにお世話になるとする」

ブータ先生は、ゆみにそう返事した。

「しばらく、ゆみの顔を見て寝れなくなってしまうからな、今夜は最後の夜を一緒に過ごそう」

ブータ先生は、そう言うとゆみのすぐ横に来て、ゆみと同じ枕の上に頭を乗せると、ぴったしゆみの頭にくっつけて眠りについた。

「おやすみ、ブータ先生」

ゆみも、自分の頭をぴったしブータ先生にくっつけると、両手でブータ先生のことを握って眠りについた。

「うわ!やばい!遅刻しちゃうよ」

次の日の朝、祥恵が慌てて2階から降りてくると食堂の自分の席に着いた。ゆみは、とっくの昔に起きていて、台所でお母さんと朝食の準備をしていた。

「はい、お味噌汁」

ゆみが、祥恵の分のお味噌汁をお椀によそうと祥恵に手渡した。

「ありがとう」

祥恵は、ゆみのよそったお味噌汁を飲み、テーブルの上に並んでいる自分の分の朝食を食べ始めた。

「ゆみちゃん、髪の毛やってあげる」

ゆみは、お母さんに呼ばれ、1階奥の鏡台の置いてある部屋で、お母さんに髪をとかしてもらっていた。

「今日はどうする?三つ編みにしようか?」

お母さんは、すぐにゆみの髪を編みたがる。けど、あまり髪を編むのが好きでないゆみは、首を横に振った。

「ゆみちゃんは、髪下ろしているほうが好きなのね」

お母さんは、編めないのを少し残念そうに、ゆみのロングの髪をまっすぐストレートに下ろしてくれた。

「ゆみ、学校に行くよ」

ショートヘアーであまり髪の手入れをする必要がない祥恵が、玄関先から学校に行く準備をして、ゆみのことを呼んだ。

「はーい」

ゆみが急いで玄関に出て行く。

「おお、もうそんな時間か」

そうつぶやきながら、ブータ先生も、ゆみと一緒に玄関に出てきた。

「何?ブータ先生も一緒に学校に連れて行くの?」

「え、うん。まあね」

ゆみは、祥恵に聞かれてごまかし、ブータ先生のことを抱き上げると、出かけた。

文通につづく

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