今井ゆみ X IMAIYUMI

多摩美術大学 絵画科日本画専攻 卒業。美大卒業後、広告イベント会社、看板、印刷会社などで勤務しながらMacによるデザイン技術を習得。現在、日本画出身の異色デザイナーとして、日本画家、グラフィック&WEBデザイナーなど多方面でアーティスト活動中。

期末試験そして

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「ああ、憂鬱」

学校の期末試験が近づいてきた。祥恵は、いつも試験前になると話してしまうセリフを、今回も同じようにつぶやいていた。

「なんか試験無ければいいのにね」

「今回、私、めちゃ世界史が難しそう」

美和やゆり子たちも、祥恵と一緒に憂鬱そうにつぶやいていた。

「なんか知っていた?今回と3学期の期末試験が過ぎると、9年生はめちゃ試験のレベルが難しくなるらしいよ」

「聞いた、聞いた。9年生の試験の予行練習みたいな感じで、次の3学期の期末試験も徐々に難しくしていくんだとか言っていたよ」

「マジで、今より難しくなったら、私、8年で留年しちゃうかも」

祥恵は、美和から聞いた話に反応した。

「祥恵は大丈夫だよ」

「え、なんで?」

「祥恵って、わからない、わからないとか言いながら、なんだかんだ言って、ずば抜けて良い点取るわけではないけど、それなりの平均点はいつもしっかり取っているじゃん」

「確かに、私なんか中間のときの化学の点数、めちゃやばかったもの」

「私も!でも、祥恵は、あのときも化学の点数、無事クリアしたでしょう?」

「え、まあ、あのときはそうだったけど」

祥恵は、2人に答えた。

「やっぱり祥恵って、ゆみちゃんの姉だけあるよね」

「うん」

ゆり子と美和は話している。

「それ、どういう意味?」

「ゆみちゃん、頭良いもの。頭の良いゆみちゃんの姉だけあって、成績もそれなりに私たちなんかよりも取れているのよ」

「そうだよね」

ゆり子と美和は頷きあっていた。

「何よ、それ。っていうか、それ逆じゃない?私が姉で、ゆみが妹なんだから、妹のゆみが私の頭を引き継ぐんじゃない」

「無理でしょう!」

美和とゆり子が同時に祥恵に言った。

「ゆみちゃんが祥恵の頭を引き継いでいたら、ゆみちゃんの成績があんなに良いわけがないじゃない」

「うん。ゆみちゃんは、祥恵の頭を引き継がなくて本当に良かったよね」

2人は、祥恵の横で勝手なことを言っていた。

「ねえ、ゆみちゃん」

麻子や由香たち4組の生徒たちが、ゆみに声をかけてきた。

「ね、ここ教えて。ここ、どうしてこんな答えになるの?」

「これは、関数の方程式がこうなるから、それで答えがそうなるのよ」

「なるほど」

ゆみの返事に納得して、自分の席に戻る麻子たちだった。

「ゆみちゃん、次の化学の試験、これどうやるの?」

今度は、隣の席の久美子が聞いてきた。試験になると、ゆみの周りにはクラスの女の子たちが集まってきて、勉強を聞いてくるのだった。いや、女の子だけではない。クラスの男の子たちも、集まってきて勉強のことを聞いてくる。

「鳥居、ここのところの答えわかるか?」

「それは、横から持ってくるから、その答えになるんだよ」

「おお、そうか!すげえじゃん、鳥居。よくわかるな」

「さっき、ゆみちゃんに聞いた」

「なんだ、そうか」

4組の鳥居と田中に、小汀が話していた。

「ゆみちゃん、これ、どうやるの?」

「これはね・・」

今、ゆみは男子バスケ部の柳瀬に理科を教えながら、その後ろの席の森という男子には数学の関数を教えていた。

こうクラスの皆の勉強を教えていると、ゆみ自身が試験勉強している時間が無くなりそうだったが、ゆみは一度、授業時間中に先生が教えてくれたことは、ほぼ全て、そのとき先生が言った冗談などの内容も含めて、記憶してしまっているために、特に試験だからと別に試験勉強などする必要がなかったのだった。

「ここの関数の解き方は、前回の授業の最後で教えたことだからわかるよな?」

「先生、前回の授業のときは、時間がなくて、その解き方については自分たちで自習してくるように言って終わりになっていましたよ」

ゆみは、先生に言った。

「え、そうだったっけ?」

「はい。森君と柳瀬君が授業中にバスケのキャッチボールしてて、それについて叱っていたら時間が無くなちゃったんです」

「ああ、そうだったな。そうか、前回に関数の解き方を教えたのは3組だったな。4組は、そうだ、そうだ!バスケのキャッチボールについて小言言っていたんだったな」

逆に、先生の方が、ゆみに授業の内容について教わることも多かった。

ただ、ゆみが勉強で困る部分が無いわけではなかった。先生が授業で教えてくれたことについては、どの内容も一度聞けばしっかり記憶してしまっていた。が、

「今日はここまで。残りの箇所については、それぞれで教科書を読んでおくように」

そう言って、先生の授業が終わってしまうときだった。授業でやらなかった箇所は、ゆみの記憶には入っていないということだ。もちろん、家に帰ってから、自分で教科書を読んで理解するのだが、ゆみは身体が丈夫でないので夜9時以降は起きていられない。教科書を読んでいる時間がないのだ。

「お母さん、今日は授業の続きの教科書を読まなければならないの」

いつもは、お母さんと夕食を作っている時間に、お母さんの夕食作りの脇で教科書を読んだりしているのだった。ほかには、祥恵の部活が終わるまでの間に、図書室で図書室に置いてある本ではなく教科書を読んで過ごすこともあった。

「ね、ゆみちゃん。次の3学期の期末試験から試験の内容が難しくなるんだってよ」

「そうなんだ」

「なんか、高等部に進学するのに入試が始まるらしいから、そのために普段の試験のレベルも上げるんだって」

「まあ、ゆみちゃんには関係ないものね」

「むしろ、もっと試験のレベル上げてくださいって感じだよね」

麻子と久美子は、ゆみのことを笑顔で話していた。

「そんなことはないけど・・」

ゆみは、麻子たちに返事した。

天文部につづく

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