今井ゆみ X IMAIYUMI

多摩美術大学 絵画科日本画専攻 卒業。美大卒業後、広告イベント会社、看板、印刷会社などで勤務しながらMacによるデザイン技術を習得。現在、日本画出身の異色デザイナーとして、日本画家、グラフィック&WEBデザイナーなど多方面でアーティスト活動中。

天文部

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「ああ、それは・・」

ニューヨークから戻ってきて、明星学園の1組になって、もう1年以上経つというのに、なかなか1組のクラスの仲間と馴染めない良明だった。

「ニューヨークの学校だったら、ゆみちゃんが側にいてくれたのに」

そんなとき、良明は決まってニューヨークにいた頃、リバーデールの公立小学校でクラスが一緒だったゆみのことを思い出すのだった。

「もう少し大きい声を出してごらん」

大友先生は、1組の音楽、合唱の授業で良明に注意した。注意された、その一瞬だけほんの少しだけ合唱の声が大きくなるのだが、すぐにまた小さな小声に戻ってしまう良明だった。

「じゃ、もう1回全体で歌ってみようか」

大友先生は、音楽室のひな壇の上に立っている生徒たちに指揮棒を振って、合唱をはじめる。本日の合唱の授業は、1組の合唱なのだが、世界史の依田先生がお休みなので、その時間に世界史を予定していた2組の生徒たちも1組に一緒になって合唱している。

「よし、ここまでにしようか」

大友先生が言うと、ほぼ同時に昼休みのチャイムが鳴った。

「終わった、終わった」

ひな壇の上に並んでいた生徒たちは、ひな壇を降りて自分たちの教室に戻るため、解散になった。

「良明・・」

ひな壇の上の方にいた栗原淳子が、ひな壇の上部から飛び降りてきて、良明の背中に腕で軽くエルボーをくらわして逃げる。

エルボーをくらった良明が、今度はひな壇の上から飛び降りて、窓際に逃げていく栗原淳子を捕まえて、ポンポンと頭をたたく。

「お前たちは仲が良いのか?」

じゃれ合っている2人に、大友先生が声をかけた。

「え、いや、別に」

2人は、大友先生の方を振り返って、2人同時に答えた。

「はい、2人は付き合っています」

そんな2人と大友先生の間を抜けて、1組の佐藤が通り過ぎていった。

「ええ、そうなの?あの2人付き合っているの?」

音楽室を出て行く佐藤の後に追いついて、祥恵と美和たちが佐藤に聞いた。

「え、いや、知らない」

「なんだ、知らないんだ」

「でも、確かに、あの2人、最近仲良いものね」

祥恵が、良明と栗原淳子の姿を振り返って確認しながら答えた。

「なかなか似合いだよ」

大友先生が、良明と栗原淳子に言った。

「ええ、そうですか」

栗原淳子は、大友先生にちょっと照れながら答えたが、良明は大きく首を横に振って、違う違うと栗原淳子の背中をポンポンと叩いた。

「いや、本当。お似合いだよ」

じゃれ合っている2人を見て、大友先生がまた言うと、それに合わせて、良明が栗原淳子の背中をポンポンと叩く。

「お前、わざと私の背中を叩いただろう?」

そう言うと、今度は栗原淳子が良明の背中をポンポンと叩く。良明は、少し逃げまどいながら栗原淳子に自分の背中を叩かれている。

「お前たちさ、良かったら、向こうの職員室で一緒にお昼ごはんを食べていかないか?」

じゃれ合っている2人に大友先生が提案した。

「はい、良いですよ」

栗原淳子は、即座に大友先生の提案を受け入れた。どうせ、中等部校舎裏の埃っぽい机の中でお弁当を食べるぐらいだったら、職員室で先生と一緒に食事する方が良いと思ったのだった。

「行こう!」

職員室でのお昼ごはんを嫌がる良明を引き摺って、栗原淳子は大友先生とともに合唱室隣りの音楽職員室に向かった。

「どこか、ここらへんの席で良いだろう」

大友先生は、自分のデスクに腰掛けながら、その周りの空いている席を2人に勧めた。

「それとも、向こうで一緒に食べるか?」

大友先生は、応接セットのソファでお昼を食べている馬宮先生とゆみたちの方を指さして言った。応接セットでは、ゆみや麻子たち女子生徒が馬宮先生と一緒にきゃきゃ言いながらお昼のお弁当を食べていた。

「あ、ここで大丈夫です」

大友先生の隣のデスクに良明を座らせると、自分もその隣りに腰掛けながら栗原淳子が返事した。栗原淳子は、性格が男っぽいのか、いわゆる女の子たちのきゃきゃいう話の中にいるのが、あまり得意ではなかった。

「食べないのか?」

大友先生は、自分の机から自分の分のお弁当を食べながら、良明に声をかけた。良明は、黙って自分のバッグを抱えながら大友先生の隣の席に腰掛けている。

「食べようぜ」

栗原淳子が、自分の分のお弁当をバッグから取り出して、食べ始めながら良明に声をかけた。すると、良明も栗原淳子のマネをして、自分のバッグの中からお弁当を取りだして机の上に置いた。

「食べよう」

もう1回、栗原淳子が良明に言うと、良明も自分のお弁当を食べ始めた。そんな良明の様子を見ながら、栗原淳子とは普通にお弁当を食べたり、学校生活を送れるんだなと思っている大友先生だった。

「あのさ、お前さ。銀河鉄道999が好きなんだって?」

大友先生は、良明に聞いた。

「え、いや、その・・」

「はい。宇宙に飛んでいくSLが大好きみたいですよ」

良明がはっきり返事をしないので、代わりに栗原淳子が大友先生に答えた。

「うん。それじゃ、星とか、宇宙とかに興味あるだろう?」

大友先生は、良明に聞いた。良明は、黙って頷く。

「先生も、宇宙とか星は大好きなんだ」

大友先生は、言った。

「淳子は、何か部活をしているのか?」

「いいえ」

「良明も部活をしていないのだろう?」

大友先生は、そう言って話を続けた。

「先生。今度、4組の小汀と田中に提案されて、天文部の顧問をやることになったのだが、お前たちも天文部に入らないか?」

大友先生は、2人に尋ねた。

「ええ、先生の部活だったら、私もやりたいな!」

そう答えたのは、応接セットでゆみたちとお弁当を食べていたまゆみだった。

新入部員につづく

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