今井ゆみ X IMAIYUMI

多摩美術大学 絵画科日本画専攻 卒業。美大卒業後、広告イベント会社、看板、印刷会社などで勤務しながらMacによるデザイン技術を習得。現在、日本画出身の異色デザイナーとして、日本画家、グラフィック&WEBデザイナーなど多方面でアーティスト活動中。

9年生のはじまり

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今日からは、祥恵もゆみも9年生だった。

「行ってきます!」

「久しぶりの学校、がんばって」

お母さんは、学校へと出かけていく祥恵とゆみに声をかけた。

「ゆみさ、そろそろブータ先生を学校に連れて行くのは卒業した方が良いんじゃない」

祥恵は、井の頭線の電車の中で、ブータ先生のぬいぐるみを膝に抱えて座っているゆみに言った。

「もう9年生なんだし」

「そうなんだけど・・」

ゆみは、祥恵に返事した。本当は、そうなんだけどの後に、だってブータ先生が勝手についてきてしまうのだもの、とつけ加えたかったゆみだった。

「あ、井の頭公園駅だ。降りるよ」

祥恵は、ゆみの手を引いて人をかき分けて電車を降りる。

「桜がきれい」

井の頭公園駅を降りると、公園には春の桜が満開に咲いていた。

「本当ね」

祥恵も、しばし、ゆみの手を引きながら桜の花に見とれていた。

「お母さん、桜がきれいだね」

「そうね。美奈ちゃんの入学を祝っているのかな」

どこかの親子連れも、祥恵たちの見ている桜の花を見て感動していた。

「さあ、美奈ちゃん、入学式に遅刻しちゃうと大変だから急ぎましょう」

お母さんは、美奈と呼ばれた新入生を連れて歩き出した。

「ゆみ、私たちも学校へ行こう」

祥恵も、ゆみを連れて歩き出す。

「あの子、新7年生かな」

ゆみは、祥恵に手を引かれながら質問した。

「さあ、どうかな」

「だって、明星学園の案内を持っているよ」

祥恵は、ゆみに言われて、お母さんのほうが持っているバッグから明星学園の入学式の案内状が飛び出して見えているのに気づいた。

「そうだね、新7年生かもね」

2人は、その親子の後ろを追うような感じで、ずっと学校まで一緒に歩いていた。学校の正門を入ると、校内放送が体育館で開かれる入学式の案内をしていた。

さっき、祥恵たちの前を歩いていた親子も、体育館の方へと歩いて行った。祥恵は、ゆみを連れて、そのまま中等部の校舎に入り、一番最上階の9年生の教室まで上がっていた。

「9年は入学式無いんだね」

「そりゃそうでしょう。入学じゃないもの。それどころか、あと1年で卒業だからね」

祥恵は、ゆみのことを笑った。

「4組はそこでしょう」

祥恵は、中等部校舎の一番最上階、3階まで階段を上がると、上がってすぐのところにある4組の教室を指さして言った。

「1組は一番奥だから」

祥恵は、そこへゆみのことを置いて、自分は廊下を一番奥にある1組の教室まで進んでいく。

「お姉ちゃん、バイバイ!」

「お姉さん、バイバイ。おいらたちを教室まで送っていただいてかたじけない」

ゆみの肩の上からブータ先生は、祥恵に向かって手を振りながらお礼を言った。もちろん、ブータ先生の言葉は祥恵には届いていないのだったが。

「ゆみ!早くおいで」

4組の教室から麻子が呼んでいる。

「おはよう、麻子!」

「おはよう、ゆみ。ゆみもゲームやろう」

教室では、麻子やまゆみなどクラスの女の子たちがサイコロゲームに夢中になっていた。ゆみも、ゲームに混ぜてもらっていた。

「おはよう」

小汀が教室にやってきた。

「あ、部長。おはよう」

湯川あさこが、小汀に言った。

「え、部長はやめようよ。今は天文部じゃないんだから」

小汀は、あさこに部長と呼ばれたことを照れくさそうにしていた。ゆみは、小汀の俺は天文部の部長なんだぞみたいな威張っていないところに好感度を持っていた。

「おはよう!」

バスケ部の岩本が、4組の教室に入ってきた。

「お前ら、9年生初日から、いきなりすごろくゲームかよ」

岩本は、ゆみたちのやっているサイコロゲームを見て言った。

「だって、もう9年だし、7年生のように入学式があるわけじゃないからね」

「9年になっても、8年でもそう変わらないよ」

「それは、確かにあるかもな」

岩本も、まゆみの言葉に苦笑していた。

「おはよう!」

一番最後に、担任の大友先生が教室にやって来た。

「今日から9年だ。9年からも引き続き、同じでつまらないかもしれないが、私が4組の担任になります。それと、今日から副担任が英語の宮本先生になります」

大友先生は、一緒に教室にやって来た女性の先生のことを皆に紹介した。

「宮本先生は、今年大学を卒業したばかりで、明星学園で今年から新しく英語を教えることになった新人の先生です」

「よろしくお願いします」

宮本先生は、クラスの皆に挨拶した。

「といっても、宮本先生が9年生で担当する英語のクラスは、2組と3組です」

大友先生は、クラスの皆につけ加えた。

「4組は英語の授業なしですか?」

まゆみが大友先生に聞くと、

「無し、では残念ながらないぞ。今まで通り、塚本先生が1組と4組の英語の授業は担当してくれます」

「ええ、俺、新しい先生のほうが良いです」

「俺も、宮本より子先生に習いたいです」

クラスの男の子たちは、若くて可愛らしい宮本先生の方を見ながら口々につぶやいていた。

「岩本、心配しなくても大丈夫だぞ。岩本なら英語の成績が悪ければ、すぐに宮本先生に徹底的に補習授業を受けさせてもらえるからな」

大友先生が岩本に言うと、岩本は宮本先生のほうを見て、鼻の下を伸ばしていた。

「あ、ただし、宮本先生は、見た目と違って、授業内容はかなり厳しいからな」

大友先生は、鼻の下を伸ばしている岩本につけ加えた。

「ええ、補講でなく普通の授業を習いたいな・・」

岩本もつぶやいた。

「え、で4組の英語の先生は誰になるんだよ」

大友先生の話をよく聞いていなかった柳瀬が、隣の席の森に聞いた。

「塚本だってよ」

「ああ、なんだ、塚本って今まで通りのババアじゃん」

柳瀬は、口悪く言葉を吐いていた。

木工の授業につづく

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