今井ゆみ X IMAIYUMI

多摩美術大学 絵画科日本画専攻 卒業。美大卒業後、広告イベント会社、看板、印刷会社などで勤務しながらMacによるデザイン技術を習得。現在、日本画出身の異色デザイナーとして、日本画家、グラフィック&WEBデザイナーなど多方面でアーティスト活動中。

大きなバス

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「ゆみちゃん!」

ゆみは、学校の正門前に停まった大型の観光バスの横を、姉の祥恵とともに歩いていると、大型バスの中から呼ばれた。

「あ、まゆみ!」

ゆみは、大型バスの中から自分のことを呼んだのが、4組のまゆみだと気づいた。

「こっちだよ!」

まゆみは、大型バスから降りると、ゆみのところにやって来て言った。

「こっち?」

ゆみは、まゆみに言われて、前を歩いていた祥恵の方を見た。

「このバスなの?」

祥恵は、まゆみに聞いた。

「うん、そうだよ。って言っても、祥恵はこのバスじゃないよ」

まゆみは、祥恵に答えた。

「このバスは4組のバス」

「ああ、そうか」

祥恵は、何台か停車している大型バスの一番後ろに停まっているバスの中を確認しながら、答えた。

「4組が一番後ろに停まっているバスだから、祥恵たちの1組は一番先頭に停まっているバスだと思うよ」

「あ、そうか。ありがとう!」

祥恵は、まゆみに御礼を言うと、一番先頭のバスへと移動しようとしていた。ゆみも、祥恵の後にくっついて行こうとする。

「ゆみは、こっちでしょう」

そんなゆみの手を掴んで、まゆみは言った。

「え、ああ」

ゆみは、まゆみたち4組の仲間たちが乗っている大型バスの中と祥恵のことを見比べながら、どちらに乗ろうか迷っていた。

「4組は、そっちだってよ」

そんなゆみのことを、祥恵は置いて1組のバスに行こうとしていた。

「ゆみ!ゆみの席も取ってあるよ」

麻子も、バスの中から降りてきて、ゆみに声をかけた。

「ほら、行ってきな」

祥恵は、ゆみの背中を押して、ゆみは、麻子やまゆみと一緒に4組のバスに乗った。

「じゃね!」

祥恵は、バスの外から中にいるゆみに向かって、手を振ると行ってしまった。

「祥恵、おはよう!」

1組のバスには、既にゆり子や美和たちが来ていて、祥恵に声をかけた。

「あ、ブータ先生じゃん」

ゆり子は、祥恵のリュックから顔を出しているブータ先生のぬいぐるみに気づいた。

「あ、ブータ先生までこっちに持ってきちゃったよ」

祥恵は、リュックから顔を出していたブータ先生のぬいぐるみを座席の上に置いてから、自分のリュックを座席の上の物置きの上に突っ込んでいた。

「行きのバスの中で、ゆみはブータ先生のことを抱っこしていたいかな?4組のバスまで届けてきたほうが良いかな?」

祥恵は、自分のリュックを荷物入れにしまいながら言った。

「そうかもね。行きのバスの中で寂しくないかもよ、ゆみちゃん。側にブータ先生のことを抱っこしていられば・・」

「そうだよね。私、ちょっと4組のバスまで届けてくるわ」

祥恵は、そう言うと座席に置いたブータ先生のぬいぐるみを手に取ろうと席の上を見た。そこには、ブータ先生の姿などどこにも無かった。

「あれ、私、さっきここにブータ先生を置かなかったかな?」

「置いたような・・置いていないような」

記憶が曖昧なゆり子は、その場にブータ先生の姿が無いので、なんとも答えられずにいた。

「リュックの中じゃないの?」

「そうかな?」

祥恵は、もう一度、天井の荷物入れにしまった自分のリュックを取り出し、中を確認してみるがブータ先生の姿がリュックの中にも無かった。

「いないね」

「もしかして、ゆみちゃんが自分のバッグの中に持っているとか・・」

「そうかな」

祥恵も、ゆり子も首を傾げていた。

「ゆみ、ここね。車酔いしても大丈夫なように窓側ね」

まゆみは、自分の隣り、窓側の席をゆみに譲ってくれた。

「ありがとう!」

ゆみは、窓側の席に座って、外を眺める。

「でも、あたし、車酔いとか乗り物酔いは一度もしたことないの」

ゆみは、まゆみに答えた。

「そうなんだ」

「うん。でも、窓側の席のほうがお外のいろいろな景色が見られるから嬉しいけど」

ゆみが、窓の外を眺めていると、窓枠のところにブータ先生が現れた。

「あ、ブータ先生!」

「よ!」

ブータ先生は、ゆみに手を振りながら言った。

「ゆみのリュックに入っていたんだけど、さっき東松原の駅でお姉さんのリュックに移し替えられてしまったから、こっちのバスに移動してきたよ」

「そうなんだ・・」

ゆみは、ブータ先生に答えた。

「ゆみ。こっち来て遊ばない?」

麻子たちは、後ろの方の席に集まってゲームを楽しんでいた。

「うん!」

ゆみも立ち上がって、皆のいる後ろの席に移動する。もしかして、山に到着するまでの間ずっと、このバスの中でこうやって皆でゲームしたりして遊んでいられるのかな。なんか楽しみ、やっぱり山の旅行に参加してよかったと思うゆみだった。

「ほら、バスが出発するから、自分の席に戻って座りなさい!」

大友先生がやって来て、皆に言った。

「はーい!」

大友先生に言われて、皆はバスの自分の席に戻った。ゆみも、まゆみの隣の窓側の席に戻ってきた。まゆみも、ゆみの隣の内側の席に座っていた。

「ゆみ、ゆみも食べる?」

麻子が、ゆみのすぐ後ろの席から声をかけてきた。

「え、麻子って、後ろの席だったんだ」

ゆみは、後ろの席の麻子からおせんべいを1枚もらいながら言った。

「あたしも、お菓子持っているよ」

ゆみは、自分の持っていた赤いリュックから昨日スーパーでお母さんが買ってくれたチョコレートの袋を取り出し、皆で分けた。

「ゆみ、ここから話ができるね」

後ろの席と前の席の隙間から、ゆみと麻子はバスの移動中ずっとおしゃべりしていた。

そば屋につづく

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