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43 さよなら、かおり
「今日は皆さんにお知らせがあります」
佐伯先生は、朝の朝礼の時間、クラスの皆に少し寂しそうに伝えた。
「昨日なのですが、かおりさんが亡くなりました」
佐伯先生の言葉を聞いた後、しばらく机の席でポカンとしてしまったゆみだった。結局、夏休みの終わりに1回お見舞いに行った後は、9月に入って1回だけ学校で習った自分のノートブックを持って、お母さんとお見舞いに行っただけだった。
「かおりちゃん」
「ゆみちゃん。良く来てくれたね」
「元気だった?なんかまた痩せちゃったね」
「うん」
「今日はね、2学期になってから学校で習ったノートブックを持ってきたの。また退院して学校に来たときに授業に遅れないようにと思って」
「ありがとう」
かおりは、ゆみのノートブックを触りながら、ゆみにお礼を言った。ゆみのノートブックは、かおりのノートのように穴が開いていない。
「あ、そうか。あたしのノートじゃ、かおりちゃん点字じゃないから読めないよね」
「うん、大丈夫。ゆみちゃん、書いてあることを教えてもらえる?書き写すから」
かおりは、自分の点字用ノートブックに点字用のペンで書き写していた。ゆみは、かおりが書く点字の字を見ながら、自分のノートに書いてあることを読み上げていた。
「へえ、点字ってそういうふうに書くんだ」
「そうなの。ゆみちゃんも書いてみる?」
「うん。書いてみたい!」
ゆみは、点字用のペンを、かおりから借りて、自分でもノートに点字を書いてみた。
「初め難しくてなんて書いてあるかよくわからなかったけど、点字って穴の位置とかがわかってくると、意外に簡単に読めるよね」
「うん。ゆみちゃん、頭いいからすぐ書けて読めるようになれるよ」
かおりは、ゆみに学校の授業を教わった代わりに、点字を教えてくれた。
「うまいよ。ゆみちゃんの書いた点字ちゃんと読めるもの」
かおりは、ゆみが書いた点字を指でなぞりながら、声に出して読んでみせた。
「うわ、おもしろい!じゃ、これは?」
ゆみは、かおりが自分が初めて書いた点字を読んでくれるのが嬉しくて、さらに他の点字も書いてみた。それを、またかおりが読んでくれた。
2人は、帰る時間が来るまでずっと点字を書いて遊んでいた。
「ゆみ、そろそろ帰りますよ」
お母さんに言われて、ゆみは病室の椅子から立ち上がって、お母さんと家路に着いた。
「ゆみちゃん、バイバイ!」
「かおりちゃんもバイバイ!今度はまた学校で会おうね」
そう言って別れたのに、学校では会えずに、かおりは亡くなってしまった。
「それで、今日の午後なのですが、かおりさんの告別式があります。学校の近く、学校前のバス停からバスに乗って行けるお寺でやりますので、放課後もし時間があったら、ぜひ皆さんも参加して下さい」
佐伯先生は、朝礼でそう言うと、黒板の端に告別式があるお寺の場所と名前を書いてから教室を出て行った。代わりに1時限目の授業を受け持つ英語の塚本先生が教室に入ってきて英語の授業が始まった。
「ね、祥恵は告別式行く?」
お昼休みに、百合子が聞いてきた。
「うん。本当は正装したほうが良いんだろうけど、学校にそんな服持ってきてないから、この服のままでの参加になってしまうと思うけど」
祥恵は、いつも着ているカジュアルのブラウスに、グリーン色のデニムのタイトスカートだった。百合子は、紺色のジャンパースカートだ。明星学園は制服がないので、学生は皆、好きな私服で学校に通っていた。
ゆみは、スカートが嫌いなので、いつもお母さんに用意してもらったズボンで学校に通っていた。今日は紺色のズボンで裾の裏地が赤チェックのものを着ていた。
「良いんじゃない。佐伯先生も参加は普段着で良いって言っていたじゃない。それに、いつも着ていた服で参加する方が、かおりちゃんも喜ぶんじゃない」
「そうだよね」
「部活どうする?」
美和が祥恵に言った。今日の放課後はバスケ部の練習の日だった。
「休みしかないんじゃない。クラスの同級生が亡くなってしまったのだもの」
「そうだよね。後で体育館に行って先輩には休むことを伝えておこう」
「そうだね」
お昼のお弁当を食べ終わると、祥恵と美和は今日のバスケ部を欠席することを同じバスケ部の先輩に報告するため、席を立ち上がった。
「ゆみちゃんはどうするの?」
百合子が、ゆみに告別式のことを聞いた。
「あたしは行かない・・」
ゆみは、泣きそうになりながら、やっとの思いで百合子に答えた。
「え、どうしてよ?あんた、ずっといつも、かおりちゃんに遊んでもらっていたじゃないの」
祥恵は、ゆみが言った百合子への返事を聞いて、ゆみに言った。
「そうだよね。いつも一緒にいたからこそ、悲しくて行けないよね」
祥恵がゆみに文句を言いそうだったので、百合子がゆみの代わりに返事をしてくれた。
「お姉ちゃん、告別式行くけど。あんた一人で家に帰れるの?」
「ううん」
「だったら一緒に行ってから帰れば良いでしょう」
祥恵には、そう言われたけど、ゆみにはどうしても参加する気になれないでいた。
「大丈夫よ。今日、あたしも学校で用事あって告別式に参加できないんだ」
麻子が祥恵に言った。
「だから、ゆみちゃん。あたしと祥恵が戻ってくるまでの間、学校で待っていよう」
「うん」
ゆみは、麻子に答えた。
「本当にそれでいいの?後悔しない?」
祥恵は、もう一度ゆみに聞き返した。ゆみは黙って頷いた。
「仕方ない子ね」
祥恵は、美和と一緒に教室を出ていった。