今井ゆみ X IMAIYUMI

多摩美術大学 絵画科日本画専攻 卒業。美大卒業後、広告イベント会社、看板、印刷会社などで勤務しながらMacによるデザイン技術を習得。現在、日本画出身の異色デザイナーとして、日本画家、グラフィック&WEBデザイナーなど多方面でアーティスト活動中。

D地区の居住者たち

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「ゆみちゃん、早く起きなさい」

「・・・」

ゆみは、お母さんたち家族とお父さんの車の中で寝ていた。少年盗賊団のメンバーだったあゆみと他に2人の女の子も一緒にトランクスペースを平らにして、そこに布団を敷いて寝ていた。今朝は、お母さんにいつもより早い時間に起こされたので、ゆみはまだ少し眠かった。トロンとした目で起き上がってきた。

「いよいよ順番が来たみたいよ」

お母さんは、まだ眠そうな顔のゆみに言った。

「ゆみちゃん、地上に上がれるんだよ!」

ゆみより早く起きて、もう着替えも終わっているあゆみたちが、ゆみに声をかけた。

「地上?」

ゆみは、寝ぼけ眼であゆみに返事した。それから、

「え?地上!もしかして順番が来たの?」

ゆみは、慌てて起き上がって、車の屋根に頭をちょっとぶつけながら聞いた。

「うん、順番みたいよ」

数日前から、ゆみたちのいる駐車場内に暮らしていた人々たちも、順番に車を地上エレベーターの前に移動し、そこから車ごとエレベーターに載せて地上に上がり始めていた。

まずマーケットの建物のすぐ側に駐車していた車から順番に地上へと上がっていった。ゆみたちのいる駐車スペースは、D地区と呼ばれていたエリアで、マーケットの建物から一番離れたところだったので、きっと移動の順番は一番最後になるんだろうなとは思っていたのだが、マーケット近くに停めていた車が皆いなくなって、やっと順番が来たみたいだった。

もう駐車場には、ゆみたちの車を含めて30台ぐらいしか残っていなかった。その30台の車に、少年盗賊団の子どもたちも分散して乗っていた。

役所の人が、メガホンを持って、駐車場に残っている車のところにやって来た。

「さて、皆様方にも、いよいよこれからエレベーターに乗って、地上に上がってもらいます。地上に上がってもらうのですが、その前に、身体に放射能が残っていないかどうか確認のために、簡単な身体検査を行って頂きます!」

役所の人は、メガホンで呼びかけながら、残っている車の周りを周っていた。

「身体検査は、マーケットの建物内に行います!2、3泊できるぐらいの着替えと食料をバッグに持って、マーケットの建物の中にお集まりください」

役所の人は、繰り返し呼びかけていた。

「着替えと食料をバッグに入れてマーケットに集合ですって」

お母さんは、家族のバッグの中に着替えや食料を詰めながら、ゆみに言った。

「お父さんは、この大きい黒いバッグパックで良いですか?」

「うん」

お母さんは、忙しそうに家族の身支度の準備をしていた。

「あゆみちゃんたちは着替えは?」

「私たちは、着替えも食料も皆、このバッグパックに入っているもの以外に何も持っていないから」

あゆみが、ゆみのお母さんに自分の背負っているバッグパックを見せながら答えた。

「そうなのね。それじゃ、すぐにいつでもお出かけできるわね」

お母さんは、あゆみちゃんたちに言った。

「ゆみは、このバッグパックに着替えとか食料を積めといたから、これを背負って出かける準備しなさい」

ゆみは、お母さんに言われたバッグパックを背負って車を降りた。お母さんも、少し大きい自分のバッグパックを背負って車から降りる。お父さんは、背負ったら頭の上のほうまである黒い大きなバッグパックを背負って車から降りた。

周りの車の人たちも、それぞれに大きなバッグを持って車を降りると、マーケットの建物を目指して、歩いていた。

竜たちも、おばあちゃんと一緒に荷物を持って、マーケットの建物に向かって歩いていた。ゆみたちも、車を離れると、マーケットの建物に向かった。

「すごい混雑」

マーケットの建物の中は、30台ぐらいの車の中から降りてきた人々で賑わっていた。皆、ここで健康診断さえ済めば、地上に上がれると思って興奮していた。

「男性の方は左側、女性の方は右側にお並び下さい!」

役所の人たちが、メガホンで誘導していた。建物の奥には、二つの入り口があって、その左側に男性が、右側には女性が並んで順番を待っていた。おそらく奥の二つの入り口それぞれで男女に別れて健康診断を行うのだろう。

「まだ健康診断始まらないのかな?」

「もっと効率よく進行させれば良いのに」

人々は並んで、健康診断の順番を待ちながら話していた。皆、健康診断が終わったら地上に上がれると思っているので、並び方に関する文句でさえも笑顔で話していたので、側で見ると役所の人たちへの文句を言っているようには聞こえなかった。

「お母さん、なんか変だよ」

ゆみは、お母さんと一緒に女性の列に並びながら、お母さんに質問した。

「何が変なの?」

「だって、今まで地上に上がった人たちって誰も健康診断なんかしていないよ。どうしてD地区の人たちだけ、地上に上がる前に健康診断するの?」

ゆみは、お母さんに頭に思っていた疑問を聞いた。

「ほかの人たちだって健康診断ちゃんとしてから上がったのよ」

お母さんは、ゆみに答えた。が、ゆみは、今まで地上に上がった人たちがマーケットで健康診断を受けるところなど見たことが無かった。

「ゆみちゃんは、気づいていないだけで、他の人たちもちゃんと健康診断してから地上に上がったのよ。そうでなければ、せっかくきれいになった地上が、また放射能だらけになちゃったら大変でしょう」

お母さんは、ゆみにそう答えていたが、ゆみには、この健康診断が何か怪しいものに思えてならなかった。ただ、どう怪しいのか問われたら、ゆみにもどう怪しいのかを答えられる自信は無かったが。

健康診断につづく

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