今井ゆみ X IMAIYUMI

多摩美術大学 絵画科日本画専攻 卒業。美大卒業後、広告イベント会社、看板、印刷会社などで勤務しながらMacによるデザイン技術を習得。現在、日本画出身の異色デザイナーとして、日本画家、グラフィック&WEBデザイナーなど多方面でアーティスト活動中。

うらり

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「今日も、ここらへんの美味しいレストランに行くの?」

ゆみは、お父さんに聞いた。

「残念ながら、うちは大金持ちじゃないから、ゆみのことをそんな毎日毎晩、高いレストランには連れていってあげられないんだよ。ごめんな」

お父さんは、ゆみに言った。

「うん、別に大丈夫」

ゆみは、言った。

「今夜は、どこかそこら辺のお店で食材を買ってきて、船の中でお料理して食べよう」

お父さんは、提案した。

「いいですよ。何が食べたいですか?」

お母さんが、お父さんに聞いた。

「なんでも良いよ」

「なんでも良いが、お買い物してくる方としては一番困るんですけど」

「魚とか・・」

「お魚料理が食べたいんですか?」

「ここ、三崎漁港は、遠洋漁業でマグロが揚がるので有名なところなんだよ」

「それじゃ、マグロのお料理にしますか?」

「ああ。マグロだったら、そこの、すぐ目の前に漁協直営のマグロとかお魚のお店があるよ」

お父さんは、ヨットが停泊している岸壁の目の前の白い建物を指さした。

「あら、こんな目の前にお店があるんですか」

お母さんは、すぐ目の前の建物を見直して言った。

「それじゃ、ゆみちゃん。ちょっとお買い物してこようか?」

「うん」

ゆみは、お母さんと一緒にヨットを降りてお買い物に出かけた。出かけようとしたのだが、ヨットが泊まっている岸壁が高くて上までよじ登れそうもない。

「上がれないよ」

大人のお母さんは、それでもなんとかよじ登って岸壁に降り立っていた。

「ほら、身体貸してごらん」

祥恵が、ゆみの後ろから身体を持ち上げて、岸壁に飛び移れる高さまで上に持ち上げてくれた。おかげで、ゆみは岸壁に移れた。ゆみが岸壁に移ったあと、祥恵もヨットから飛び上がって、岸壁に移った。

「さすが、バスケ部。ジャンプ力すごいね」

「こんなのバスケ部関係ないから」

祥恵は、ゆみに言われて答えていた。

「お姉ちゃん、どこに行くの?」

ゆみは、自分たちと一緒に岸壁に乗り移ってきた祥恵に聞いた。

「え、お買い物行くんでしょう?」

「あ、お姉ちゃんも一緒に来るんだ?」

「来てほしくない?」

「ううん」

ゆみは、祥恵とお母さんの間に入って、2人の手をぎゅっと握って、目の前の漁協の市場の建物の中に入っていった。

「うらり・・」

ゆみは、市場の入り口のところに書いてあった文字を読んだ。

「うらり。ここの三崎漁港の市場の名前」

「うらりって言うんだ。どういう意味?」

「知らない」

うらりの市場の中には、いろいろなお魚が売られていた。別に、お魚だけでなくお野菜や雑貨、総菜まで売られていた。

「お魚だけじゃないんだね」

「そうね。なんでも売っているよね」

3人は、うらりの中をぐるりと一周して売っている品物を見て回っていた。

「お野菜も、船に乗って獲ってきたの?」

ゆみは、祥恵に聞いた。

「そんなわけないでしょう」

祥恵は、ゆみの質問を一笑した。ゆみの頭の中では、漁師さんたちが船に乗って、離れた島まで行って、その島に生えている野菜を収穫しているところが浮かんでいたのだった。

「そうだったら、おもしろいわよね。だけど、お野菜は近所の畑からトラックで収穫してきたお野菜なのよ」

野菜を売っていたおばさんが、ゆみがお母さんに話していたのを聞いて笑顔で、ゆみに話しかけてきた。

「三浦大根ですか?」

お母さんは、野菜の中にある大根を指さして聞いた。

「そう。そうなの、そちらは採れたての三浦大根なのよ」

野菜のおばさんは答えた。

「へえ、1本買っていこうか?1本は大きすぎるわね。半分買っていきましょう」

お母さんは、三浦大根を半分購入した。

「三浦大根っていうのは、三浦半島の名産の大根なのよ」

お母さんは、ゆみに説明してくれた。

「祥恵。あなたも覚えておきなさいよ。三浦大根とかだったら、社会の勉強かなにかで試験にも出るかもしれないし」

お母さんは、ゆみに説明している姿を、自分には関係ないというような顔していた祥恵に言った。

「そんなに有名な大根の生産地なんだ」

「そうよ。わりとね」

お母さんは、ゆみに答えた。

「さあ、今夜はマグロの煮付けとお刺身、三浦大根をすって頂きましょう」

お母さんは、お買い物を終えると、お父さんのヨットに戻り、ゆみとヨットのキッチンの中でお料理を始めた。

「なんかヨットの中でのお料理にもだいぶ慣れてきたよね」

「そうね」

お母さんとゆみは、料理をしながら話している。

「そうか。慣れてきたか」

お父さんは、2人に言った。

「それじゃ、ずっとヨットの中で生活するってなっても大丈夫だな」

「いやだ!なんか、ずっとここで暮らしたら、ホームレスみたい」

ゆみは、お父さんに反対した。

「そうか?どこがホームレスみたいだ?」

「だって、ベッドも、トイレも、お食事もみなこの部屋の中でするんでしょう。お父さんが、そっちのトイレしているすぐ横で、お食事したり、そっちで寝たりするなんて・・」

「そうか。ゆみは文化的なんだな」

「文化的って・・」

「例えば、よくニュースとかで聞くだろう。ヨットで太平洋横断したとかってニュース。ああいう人たちは、ヨットのキャビンの中でずっと過ごしあがら太平洋を横断したりするんだぞ」

「そうなんだ」

ゆみは、狭く物が散らかったお父さんのヨットの船内を見渡して、頷いた。

横浜につづく

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