今井ゆみ X IMAIYUMI

多摩美術大学 絵画科日本画専攻 卒業。美大卒業後、広告イベント会社、看板、印刷会社などで勤務しながらMacによるデザイン技術を習得。現在、日本画出身の異色デザイナーとして、日本画家、グラフィック&WEBデザイナーなど多方面でアーティスト活動中。

冥王星の悲劇

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「この人たちは、いわゆる冥王星の悲劇と呼ばれる、あれで亡くなった人たちの名前です。って言っても、全員の名前は載っていないですよ」

太助は、肖像が無くて名前だけが刻まれた石標の前で、ゆみに説明した。

ゆみも、冥王星の悲劇というのを名前だけは宇宙戦士訓練学校の授業で聞いたことがあった。ヤマトがイスカンダル星に向かう旅で、太陽系から出ていくときに、ガミラスの艦隊に襲われたことがあって、そのときに冥王星の基地に赴任していた地球人たちがヤマトのことを命がけでガミラスの艦隊から援護してくれたとかいう事件があった・・らしかった。

「なんで、全員の名前が載っていないの?」

「それは、当時、冥王星の基地にいったいどのぐらいの地球人が赴任していたのか、正確なデータが無いからですよ」

太助は、ゆみに答えた。

「当時の冥王星には、かなりの地球人が赴任していたらしいです。なんか、ガミラスが地球に遊星爆弾を落としていた頃に、その遊星爆弾から逃れるための避難用の大型ロケットをロシアが開発して、そのロケットが発射するとき、発射台の周りに住んでいた人たちが大量に乗って避難したそうです。そのロケットが不時着したのが、冥王星で、その人たちは全員、冥王星で避難生活していたそうです」

太助は、ゆみに教えてくれた。学校の授業では、先生は、冥王星の悲劇についてはあまり多くに触れなかったし、当時、地下シェルターに避難していたゆみは、そんな事件があったことも知らなかったのだった。

「避難したのって皆、ロシア人ばかりだったのか」

「それが、そうでも無かったみたいですよ。ロケットの開発したのがロシアってだけで、当時、日本からも多くの難民船がウラジオストックの港に不時着していたので、日本人の中にもロケットに乗って冥王星に避難した人は大勢いたみたいです」

太助は、ゆみに言った。

ゆみは、太助から聞いた話と、いま目の前にある石標の名前を見ながら、冥王星の悲劇の状況を想像していた。

 

「難民船が出航します!乗船の方はお早めに!」

東京港の港では、係の者が難民船に乗車希望の人たちに案内していた。

「うっ・・」

祥恵は、その案内係の大きな声で目を開けた。

「私、どこにいるんだろう?」

祥恵は、地面の上に寝転がっていたみたいだった。その地面から立ち上がると、周りをキョロキョロした。

「気がつきましたか」

「ここは?」

「東京港の港の港内ですよ。あなたは、ガミラスの攻撃にあって上空へ吹き飛ばされたみたいです。そして、そのまま流されて、この港に落ちてきて気絶されてしまったみたいですよ」

その女性は、祥恵に状況を説明してくれた。

そうか!私は、お父さんの車に家族で乗って避難していて、そしたら避難の途中でガミラスの宇宙船に襲われて、車のタイヤが地面に開いた穴にはまってしまって、車の後ろから押していたんだった。

そのときに、ガミラスの宇宙船に再度攻撃されて、私だけ吹き飛ばされて、ここの港まで飛ばされてしまったんだ、きっと。

「どうしますか?」

「はい?」

「難民船、乗船しますか?」

「難民船?」

「あの難民船に乗船すれば、ウラジオストック港まで渡れるみたいなんです。そうすれば、ウラジオストックから宇宙に脱出、避難できるロケットが打ち上がるので、それに乗れば、地球の遊星爆弾から避難できるらしいですよ」

「それじゃ、避難しなくちゃ」

気絶から覚めたばかりでまだ、よく頭が回っていない祥恵は、慌てて声をかけられた女性にそう答えた。すると、女性は、祥恵の肩に手を貸してくれて、難民船に一緒に乗船させてくれた。

難民船は、ウラジオストック港に到着した。すると、祥恵は、ロケットはすぐに発射すると言われ、女性とともに急いでロケットに乗車した。

3、2、1・・・ブラストオフ!

ロケットは、宇宙へと発射した。

飛び立ったロケットは、燃料が無くなるギリギリまで飛び続け、冥王星に到着した。冥王星に不時着した乗員たちは、皆で力を合わせて、冥王星に基地を作り、そこで避難生活をしていた。もちろん、祥恵も基地作りに一生懸命貢献した。

冥王星で避難していると、地球から宇宙戦艦ヤマトがイスカンダル星に向けて出航したというニュースが入ってきた。冥王星の避難者たちも、ヤマトが地球の放射能をきれいにしてくれたら、また地球に戻って、元通りの生活ができると沸き立っていた。

そんな宇宙戦艦ヤマトが、冥王星のすぐ側を通ったときに、ガミラスの大艦隊に襲われた。宇宙戦艦ヤマトは、われわれ地球人の希望だ!ヤマトが滅びたら、もう地球はお終いになってしまう。そう思った冥王星の人々は、なんとしてもヤマトを救わなくてはと考えた。

彼らは、ガミラスの大艦隊の注意を、ヤマトで無く冥王星の方に向けようと、ありったけの武器を大艦隊に向けて砲撃したのだった。そのかいがあって、ガミラスの大艦隊は、冥王星の方に攻撃してきた。その間に、ヤマトは大艦隊から逃れることができたのであった。

その代わりに、冥王星の基地は大打撃を受けてしまった。17名の避難民は非常用の脱出ロケットで地球に戻ってくることが出来た。が、残りの避難民たちは全員、冥王星の基地と運命を共にしてしまっていた。

はじめ、17名以外の冥王星の避難民は全員亡くなったものと思われていた。それが最近になって、基地が撃破される前に、基地を放棄して冥王星のクレーターに避難した地球人が何人もいたらしいということが、その中の1人が冥王星から救助されたことにより、判明したのだった。

「大丈夫か?」

「ええ、なんとか」

祥恵は、冥王星のクレーターの中に洞穴を掘り、そこで何人かの避難民とともに暮らしていた。

「このまま、地球から誰も救助に来てくれなかったらどうしよう?」

「でも、ここのクレーターの中には、何の実かはわからないけど、植物がいっぱい生えているから、オアシスのようになっているから、食料と飲料だけは不自由せずに生きていけそうなのが助かる」

祥恵たち避難民は、クレーターの中で暮らしながら話していた。

 

「ゆみさん、ゆみさん。どうしたのですか?」

太助に声をかけられて、肖像画の前にしゃがんでいたゆみは、ハッとした。冥王星にいるお姉ちゃんのことを想像するのに、夢中になってしまっていたようだった。

「誰か、こっちに、英雄の丘の上に上がって来ますよ」

太助に言われて、ゆみは丘の下のほうを見た。そっちの公園の入り口から省庁のエリート制服を着た人たちが大勢何か話し、談笑しながら丘を上がってくる姿が見えた。

丘の上の宴会につづく

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