今井ゆみ X IMAIYUMI

多摩美術大学 絵画科日本画専攻 卒業。美大卒業後、広告イベント会社、看板、印刷会社などで勤務しながらMacによるデザイン技術を習得。現在、日本画出身の異色デザイナーとして、日本画家、グラフィック&WEBデザイナーなど多方面でアーティスト活動中。

島の食堂

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「やっぱり、こっちの食堂のほうが良かったね」

「そうね。緊張しないで食べられるわね」

お母さんとゆみは、初島のちょうど観光船が到着する島の中心地にあった小さな食堂で、お昼ごはんを食べながら話していた。

「私は、さっきのホテルのレストランの食事も食べてみたかったな」

祥恵は、言った。

「だろう、だから、お父さんはあそこで食べていこうって言ったのに」

「あ、でも、この格好で入るのはちょっと嫌だな、っていうか無理でしょう」

祥恵は、お父さんに答えた。

「それじゃ、1回ヨットに戻って、夜ごはんは正装してレストランに行くか?」

「それも良いかもね」

祥恵は、お父さんに賛成した。

「正装って、祥恵は正装の洋服なんてヨットに持ってきているの?」

お母さんは、祥恵に聞いた。

「正装っていっても、けっこうキレイめなポロシャツとかタックの入ったパンツとかで良いんだよな」

お父さんは答えた。

「そのぐらいなら、私もちゃんとヨットに戻れば荷物の中に入れてきているよ」

「あら、そうなの?」

「うん。荷物に、バッグの中に白のブラウスと紺のスカート持ってきている」

「祥恵はずいぶん用意がいいわね」

「お母さんは、そういうの何か持ってきていないの?」

「そうね、なんか持ってきてあったかしらね?」

お母さんは、首を傾げた。

「ゆみちゃんのが、そういう正装した服なにも持ってきていないわ」

お母さんは、祥恵に言った。

「祥恵は、ヨットに乗りに来るのに、パンツだけでなく、ちゃんとスカートとかも持ってくるの?」

「普段の日帰りでは持っていかないときもあるけど、こういう泊まりのときは、向こうの到着地で、ヨットを下りたときに何かあるといけないから、一応スカートも1着は持ってくるようにはしているよ」

「そうなの、祥恵は用意がいいわね」

お母さんは言った。

「祥恵は、普段からもスカートよく履くものね。それに比べて、ゆみちゃんは本当に普段からスカートぜんぜん履かない子ね」

お母さんは、ちらりとお昼のパスタを食べているゆみの方を見ながら言った。

「お姉ちゃん、お嬢様だもの」

「あら、そうなの?それじゃ、お嬢様のお姉ちゃんの妹のゆみだって、お嬢様じゃないの?」

「あたしは、ぜんぜんお嬢様じゃないもん」

ゆみは、お母さんに答えた。

「なんだ、ゆみはお嬢様の子じゃないのか?」

「うん。だって、お父さんの子どもだよ」

ゆみは、お父さんに再度聞かれて答えていた。

「はは、そうか。お父さんの子だから、それは確かにお嬢様ではないかもしれないな」

お父さんは、ゆみの返答に笑っていた。

「午後はどこに行くの?」

ゆみは、食事のあと初島の周りを家族で一周してきたあとで、お父さんに聞いた。

「さて、どこに行こうかね。小さな島だから、これでもう他には行くようなところはないのだが・・」

お父さんは答えた。

「それじゃ、あたし、シカのところに行きたい」

ゆみは、そう言うと、お母さんたちと一緒にヨットを降りてしばらく歩いたところにあった林に戻ってきた。林の中には、まだ何頭ものシカたちがくつろいでいた。

「おいで」

ゆみは、シカたちの側に行って、シカの頭を撫でてあげたりしながら、ずっと遊び続けていた。シカたちと林の中で遊んでいるので、履いているジーンズの裾とかが地面の土で汚れてしまっていた。

「ゆみは、本当に動物が好きね」

お母さんは、シカたちと遊んでいるゆみの姿を見ながら、笑顔でつぶやいていた。

「本当に、俺の娘って感じで、お嬢様というよりも庶民の娘だな」

お父さんも、シカと林の中で遊ぶゆみをみて、つぶやいた。

「それに対して、お姉さんはお嬢様ね」

お母さんは、林の木の切り株にピクニックシートを敷いて腰掛け、スマホをいじっている祥恵に言った。

「え、そうかな?」

祥恵は、手にしているスマホから顔を少しだけ上げ、お母さんの方をちらっと見ながら答えていた。

「祥恵はどちらかというとお嬢様で、いろいろ一通りは揃っていないと満足できない感じで、一方ゆみは、特に何も与えなくても自分で自由に何か遊べることを見つけて過ごせる。同じように育てたつもりでも、姉妹でぜんぜん違うわよね」

お母さんは、しみじみと言った。

「そうかな、私もそんなには贅沢なお嬢様って感じでもないけどな」

「祥恵は、けっこう物にこだわるじゃない」

「そうかな。ゆみだって、けっこうお嬢様だなってところあるけどな・・」

祥恵はつぶやいていた。

「さあ、そろそろ船に戻ろうか」

皆は、初島のヨットを泊めている漁港に戻ってきた。

「お姉ちゃん、スカートに着替えるの?」

ヨットのキャビンに入ると、ゆみは祥恵に聞いた。

「え、着替えないよ」

祥恵は答えた。

「夜ごはんは、レストランに行くんじゃないの?」

ゆみは、祥恵に聞いた。

「行かないよ。第一、レストランに行くんだったら、あんたは正装の服持ってきていないでしょう」

祥恵は答えた。

「レストランは行けなくなった。ここの漁港が一泊はヨットとかを泊められないんだ。だから、暗くなる前に出航しなければならない」

お父さんが、キャビンの中に入ってきて、ゆみたちに告げた。

「そうなの?それじゃ、今夜はどこに泊まるの?」

「もう一度、熱海の港に戻ろう」

「あ、熱海でもう1回お泊まりするんだ」

「ここから、すぐ近くだし、な」

お父さんは、ゆみに言った。そして、お父さんのヨットは、初島の漁港を出港して、再度、熱海の港に入港し、そこの岸壁に着岸した。

花火大会につづく

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